日本のGDPを抜いて世界3位の経済大国に成長したドイツ。
その生産性の高さなどから日本でもドイツの成功モデルを誉めそやす報道がなされていますが、実際のところドイツの経済成長はここ数年停滞しており、特に過去二年ではマイナス成長を記録してひそかに話題を集めました。
| GDP成長率 | ドイツ | 日本 |
|---|---|---|
| 2023 | -0.9% | 1.5% |
| 2024 | -0.5% | 0.1% |
| 2025 | 0.2-0.3%(予想) | 0.9-1.0% |
ミャンマーやスーダンのように国内政治に問題を孕む国がマイナス成長を続けることはよく散見されますが、ドイツのような経済大国が、しかも二年連続でマイナス成長を続けることは異例とも言えます。
ドイツ経済は実際のところどうなのでしょうか?現地での生活、仕事などの実例も踏まえ解説していきます。
専門家の間では「小規模な不景気」と呼ばれているのが実情です。リーマンショックやコロナ禍のような派手さはないものの、一朝一夕に回復しそうにない長期的、構造的な問題とされています。
ドイツの実体経済を示すうえでよく使われる指標が製造業PMIで、これが50を上回れば「好景気」と言われますが、ドイツはコロナ禍からの一瞬の回復期を除いてほぼ50以下が続いています(※製造業に限らなければ50以上)。
| 年(12月・確報) | ドイツ 製造業PMI | 判定(50基準) |
|---|---|---|
| 2021年12月 | 57.4 | 拡大(>50) |
| 2022年12月 | 47.1 | 縮小(<50) |
| 2023年12月 | 43.3 | 縮小(<50) |
| 2024年12月 | 42.5 | 縮小(<50) |
| 2025年12月 | 47.0 | 縮小(<50) |
ドイツの製造業は自動車、化学、製薬などを中心にドイツ経済の屋台骨と言われる存在で、外貨獲得、税収、雇用、外注などを支えており、ここが躓くとドイツ経済全体にダメージが波及します。
一般的には製造業の購買意欲が低下すると、雇用が減少します。実際にドイツの失業率は2025年12月現在、コロナ禍中と同等水準まで上昇しており、特に若者層の間で職探しが顕著です。同様にマーケティングや新規開発にかける資金も減少するので、他サービス部門に流入する資金も減り、結果としてドイツ国内で循環する資金が滞っていくわけです。
ではなぜ、EU経済の優等生と言われたドイツ経済がこのような状況に陥ってしまっているのでしょうか?
今回のドイツの不景気はドイツの構造的要因に起因すると言われていますが、その引き金を引いたのは「ロシアによるウクライナ侵攻」だと言われています。
ロシアによるウクライナ侵攻前夜、すなわち2021年時点におけるドイツのロシア一次エネルギーへの依存率は30~40%前後であったとされており、このエネルギー供給が滞った瞬間にドイツ製造業全体に衝撃が響き渡りました。ロシアからの安価な天然ガスが使えなくなったため、代替エネルギーを急遽用いることとなり、製造価格が高騰、製品価格に転嫁されインフレが引き起こされたのです。これによりドイツ製造業のコスト競争力は失われました。
EUの中でも、このロシアによるウクライナ侵攻ダメージが最も激しかったのは、エネルギー依存度が高かったドイツであり、これが3年たった今でも尾を引くこととなります。
コスト競争力が失われても、ドイツのお家芸である「高品質のモノづくり」が本来であればドイツ製造業を支えるはずでしたが、その伝家の宝刀は既に急成長するライバルたちの前で影を潜めつつあります。
その顕著な例がEV自動車による中国・アメリカ勢に対する敗北です。特に日本ではまだ知名度が少ないですが、EU市場における中国のEVメーカーの進撃は驚異的で、今までドイツ車の牙城であったマーケットを次々と食い荒らしています。
また、ソフトウェア部門でのドイツ勢の遅れも致命的でした。TESLA、BYDといった新興勢力が独創的なモノづくりを進める中、ドイツは優秀な旧来のモデルに固執し、後塵を拝するようになったとされています。
結果、稼ぎ頭であったドイツの自動車産業が低迷し、その傘下や外注先もドミノ倒し式にその影響を被るようになったわけです。
ドイツは移民政策を推進し、過去10年で600~700万人の移民を受け入れたとしています。この移民は人道的な目的以外にドイツの人口減を下支えする役目を期待していましたが、結局のところ人口減の歯止めにはなったものの、経済の下支えにはならなかったとされています。
その原因として、移民がそのままドイツ経済・産業の即戦力にならなかったことが挙げられます。国も文化も言語も違う人々がドイツの経済機構に慣れるにはかなりの時間を要します。工事現場や掃除のアシスタントなど、安価な労働力を確保することには成功しましたが、付加価値を創出する高技能労働力にはならなかったのです。
結果として、ドイツの採用現場では「高い失業率」と「人材不足」という一見すると矛盾するような状況が続いています。実情は矛盾でもなんでもなく、不足している人材とはエンジニアやシニアマネージャーのような高技能人材のポジションであり、こうした人材の確保に各企業が苦しんでいるのです。
上述のようなEVやIT分野での遅れはここの人材を確保できなかったことに起因しています。
現在、ドイツ経済は日本同様に困難な過渡期に直面しています。旧来優秀とされてきた産業モデルの限界点にあたり、様々な産業・経済構造の見直しを迫られています。ドイツの右翼政党が力をつけ始めているのも、こうした不安定な世相を反映してのことでしょう。
こうした状況でも、利益を出す企業はしっかりと利益を出しており、人材の採用も通常通り、あるいは通常以上に活発的におこなわれています。もっともその矛先は、より海外(中国以外)に販路の目を向けたグローバル戦略を担える人材であり、理系であれば開発チーフを担える人間、文系であれば海外販路を開拓できる人間などです。
こうした高技能人材としての需要はドイツでは好景気・不景気に関わらず高いため、自身の知識とスキルを研鑽し続けることがドイツの不景気な世の中を生き残るための方法と言えるでしょう。