一般的な海外就職のセオリーは、現地に移住して拠点を構えてから就職活動をすることですが、その場合、今の仕事を辞めるリスクを冒すことになります。そのため、中には日本で仕事を続けながら海外での就職活動をおこない、実際に内定を勝ち取る応募者も少なくありません。
今回の記事では、そのように日本にいながらドイツで就職活動をおこない、転職を成功させるまでのプロセスとポイントを解説いたします。
日本にいながらドイツ就職は可能か?
コロナで遠隔地からの応募・面接というスキームが一定割合に定着したこともあり、ドイツ就職市場でも他国からの応募の際には度々オンライン面接が用いられます。今までは、面接までのアクセスなどから、当該地に住んでいる人が圧倒的に就活市場では有利でしたが、こうしたオンライン面接の発展により、日本にいながらドイツで就活をおこなうことも十分可能となりました。
最も、実務的には応募・内定は可能とはいえ、実際に遠隔地からの応募となると、雇用主・雇用者側ともにいくつかのハードルを乗り越える必要が出てきます。そもそも、ドイツの雇用主側からすれば、わざわざ海を越えた外国からリスクを冒して人を採用するわけなので、そういったデメリットを打ち消すほどの魅力が応募者側には求められます。
ドイツ移住後の応募 | 日本からの応募 | |
応募者のメリット | 企業側に本気度が伝わりやすく、面接に呼ばれる確率が高まる | 現行の会社を辞めることなくドイツで就職活動することができる |
応募者のデメリット | 滞在許可証の問題が発生するため、期間内に仕事が見つからないとドイツを退去することになる | 企業側に本気度が伝わりにくく、面接に呼ばれる確率は下がる。また、他国からの応募者を雇うには企業のリスクが高く、応募者側にはそれ相応のスキルと魅力が要求される |
そういった意味では、日本にいながらドイツの内定を得ることは理論上は可能ですが、現実問題では現地からの応募と比べてやはり難易度が高い、という結論に至るでしょう。もっとも、ドイツの日系企業のように、むしろ日本での職歴を高く評価するような企業群にあってはこうした遠隔地からの応募がむしろプラスに働くこともあるため、ポジションによっては十分に可能性があると言えるでしょう。
プロセス1. 応募
さて、実際に日本にいながらドイツでの就職活動をおこないたいと思い立ったとすると、まず最初にしなくてはいけないのは「応募」です。ドイツで一般的な就職応募方法はGlassdoorやIndeedのような就職ポータルを用いた応募で、続いてハローワークやソーシャルネットワークを用いた応募などが続きます。最も、応募形態によってはドイツに住んでいることやドイツで職歴があることが条件になるものもあるため、実際に日本人が日本から応募するにあたって現実的なのは「就職ポータル」と「転職エージェント」の2パターンとなります。
また、応募に当たっては日本と勝手が異なるポイントがいくつかあるので、注意しなくてはいけません。
日本のやり方 | ドイツのやり方 | |
履歴書 | 特定のフォーマットが通例 | 特定のフォーマット無し(PDFなどで作成) |
履歴書の言語 | 日本語 | 英語かドイツ語 |
履歴書の時系列 | 古い順 | 新しい順 |
カバーレター | ない | ある |
その他書類 | 指定のものを添付 | 資格や推薦状などを添付して良い |
就労ビザ | – | 企業によっては就労許可を持っていることが前提になるので注意 |
就職ポータルを用いた応募
LinkedInやXingのようなソーシャルメディアと組み合わさったものもあれば、求人がずらりと並んだIndeedやGlassdoorのようなサイトもあります。Stepstoneはドイツの就職ポータルであり、給与や応募要件など詳細が細かく記載されている特徴を持ちます。
- Indeed (アメリカ企業)
- Glassdoor(アメリカ企業)
- Stepstone(ドイツ企業)
- Monster(アメリカ企業)
- LinkedIn(ヨーロッパ全体で広く使われている)
- Xing(ドイツに強い就職系ソーシャルネットワーク)
- E-Recruiting(ドイツ日系向けオープン就職ポータル)
基本的に、就職ポータルを介しての応募は数をこなす必要があるので、これらの一つに絞って応募するというよりも、複数の就職ポータルの案件を活用することが効率的でしょう。絞り方を間違えると、何十件応募しても全く選考に引っかからない、という事態に陥ってしまうので、自身の得意分野をしっかりと見極めたうえで応募する必要があります。「Japanese」「Japan」など日本に関連するワードを混ぜてフィルタリングすると、他の企業よりも専攻プロセスに進む確率は上がります。
転職エージェントを介した応募
「ドイツの日系人材紹介会社事情」の記事でも紹介していますが、ドイツでは転職エージェントを介しての就職は特殊なポジションへの応募で好んで用いられる傾向にあります。そう言った点では、日本からの転職、日本語を活かした転職、といった場合には日系転職に強いエージェントを活用するのは非常に効果的です。
ドイツや欧州に本社を構えている日系転職エージェントであれば、以下のような企業が用いられやすいと言えます。他にも、日本に本社を持っている企業がドイツで求人をおこなっているケースも散見されます。
- Career Management(ドイツ日系転職エージェント最大手級、20年以上運営実績)
- Career Connections (イギリス・ドイツ転職に強い)
- ADENI(細かな案件を得意とする)
- Fisher(現地密着型のサポート)
- Center People(イギリスに強いが、ドイツ案件もアリ)
上記の就職ポータルよりも日本人のドイツ就職に特化していることが多いので、オンラインでの面接や就職ビザの相談に乗ってくれることが多いのが特徴的です。ただし、就職ポータルに比べるとリーチできる企業群が少なくなるデメリットもあるので、自身の条件などと併せて、上手に複数のメディアを使いこなしましょう。
プロセス2. 面接と内定
一般的にドイツ企業は対面での面接を好みますが、コロナを契機としてオンライン面接のニーズも高まり、日本からの応募のようにやむを得ず遠隔地からの面談となるような場合では、ZoomやMeetを用いてのミーティングも可能です。面接は1~3回が一般的で、書類選考でかなりの数が絞られることから、面接に進んだ時点でかなり好感触と言えるでしょう。
自身のスキルや経歴などは履歴書やカバーレターで確認できるので、面接で採用者側が確認したいのは志望動機やモチベーション、コミュニケーション能力や語学力といった部分です。また、過去の実績に再現性があるのか、一貫したキャリアを歩んでいるかなども応募者の口から確認したがるので、聞かれやすい質問に関してはドイツ語(英語)で回答を準備し、練習しておくことをお勧めします。
ドイツでの面接で聞かれやすい事
- 過去の実績・職歴
- 過去、どのように成果を残したのか
- 成果を残すにあたってどのような方法論を用いたのか
- 自身の強みや弱みは何か
- 採用された場合、将来どのようなキャリアを歩みたいか
- 採用された場合、どのような役割や実務を期待するか
- チームワークは得意か、過去の経験は?
- なぜ日本を離れドイツで就職するのか
- なぜこの会社に応募したのか
プロセス3.ドイツ移住に伴う諸手続き
さて、晴れて内定となると、続いて諸々の書類手続きが待ち構えています。最重要課題は、「労働契約書」の締結です。これをもって法的効力を持たない「内定」の口約束が、正式な効力を発揮するようになります。
もっともこの労働契約書、試用期間や退職告知期間など、場合によっては会社の都合の良い形であることも少なくありません(特に海外からの応募の場合、事情を知らないため足元を見られることも)。知り合いにドイツ人などがいれば、必ず内容が正当なものかなどを確認してもらうようにしましょう。
また、労働契約書を締結しても、まだまだやるべき書類手続きは山積しています。
日本側の手続き
日本を出国する前に必ずやっておくべきなのが最寄りの市役所(区役所)における「海外転出届」の提出です。3ヶ月以上海外に滞在する場合、一般的には海外転出届を提出する義務があると見なされます。この海外転出届を提出することによって、日本国在住の国民の義務である「健康保険加入」と「年金納付」が免除される(※自由意思で継続は可能)こととなります。裏を返せば、海外転出届の提出を怠ると、海外在住中でも不要に健康保険や年金を支払うこととなります。
- 海外転出届の提出
- 健康保険の解約(住民票抹消)
- 年金の納付猶予申請(住民票抹消)
- パスポートの更新
- 住民税の納付(翌年)
他に、就労ビザはパスポートの残存期間に紐づくので、残存期間が少なければ出国前のパスポート更新や運転免許証更新をお勧めします。また、日本で働いていたのであれば、翌年住民税の納付義務が発生するので、連絡のつく住所(両親など)に通達のうえ、不払いにならないように手紙を受け取ってもらうようにしましょう。
ドイツ側の手続き
ドイツへは、日本人であればビザなしで3ヶ月まで滞在が許されています。就労ビザの取得は入国後、現地の外人局で手続きすることが一般的であるため、必要書類をもって可及的速やかに手続きを行いましょう。また、ビザの取得は「管轄の外人局」でおこなわれるルールがあるため、外人局の予約に先立って住民登録を済ませる必要があります。地域によっては住民登録や外人局の予約に長い時間がかかるため、オンライン等を通じて早め早めに予約を取っておきましょう。
- 住民登録
- 就労ビザの手配
- 家の賃貸契約の準備
- 免許証の書き換え
もっとも、ドイツに入国してからビザの手続きをおこなうと、ビザの申請が仕事開始日までに間に合わないなどのこともあるため、内定先と相談し、都度都度効率的なやり方を探しましょう(代理人申請など)。