
AI分野を中心に、ドイツではスタートアップ企業の設立が盛んです。ここ数年でスタートアップ企業自体の数も総売り上げも順調に伸びており、そのフラットで若い社風から新卒学生や外国人の就職先としても人気を博しています。
ドイツのスタートアップは主に「ベルリン」「ルール地方」「ミュンヘン」の3地域に集中しており、特にベルリンは多くのスタートアップが熾烈な採用争いをしていることで知られています。
本稿では、ドイツの大学に通いながらベルリンのスタートアップ企業でインターンした体験談を紹介します。
応募の経緯と応募方法
スタートアップ企業の場合、大手企業のようにまだ知名度が少ないため、自前のホームページなどで新卒生を採用というよりは、GlassdoorやIndeedのような就職ポータルや、場合によってはLinkedInやXingを介した直接採用がおこなわれます。
私の場合、たまたま知り合いの学生がインターンで働いており、その友人を通じて紹介してもらったのがきっかけです。場所はスタートアップ企業の多いベルリン、業種はITで各国に展開するための市場調査のインターンを募集していたため、自身のキャリアと似ていたこともあり応募した次第です。
このように、規模の小さいスタートアップでは従業員の友人やネットワークを用いてインターン生の採用活動を行うことが少なくなく(人材採用コスト節約のため)、ドイツの学生生活での人脈が物をいうことがあります。
ちなみに、採用面接は2回、両方ともスタートアップらしくリモートで行われました。最初は同僚となるレベルの社員と、次いで管理職と面接をおこない、ハードスキルよりもソフトスキルを重点的に調べられた感じがします。特に若い社員が多く、退社後や週末もたまにイベントが開催されることから、その辺のノリについてこれるのか、みたいな感じでした。
ポイント | LinkedInやXing等のプラットフォームを通じた採用が多い |
スタートアップの雰囲気
ビルの一室のような小規模なオフィスで営まれていることも少なくなく、業態にもよりますが比較的年代が若く多国籍で英語が通じやすいという特徴が良く見受けられます。私のインターンしたベルリンのスタートアップ企業もほぼメインは20代で約5割、30代が4割、40代は1割という平均年齢の若い会社でした。
服装や働き方に関しても割と「ラフ」であることが許される社風で、9時~17時という一般的な就業時間以外にも、10時出社して遅めに帰宅、8時出社して早めに帰る、在宅出社、といったフレキシブルな働き方が採用されていました(※ただし、コロナ以降では大手企業でもこのようなフレキシブルな働き方が採用されはじめている)。
一般的な企業 | スタートアップ | |
---|---|---|
従業員規模 | 大規模 | 小規模 |
工場 | 自前が多い | OEMが多い |
年齢 | 30~50代 | 20~30代が多い |
国籍 | ドイツ人が多い | 多国籍であることが多い |
言語 | ドイツ語+英語 | 英語が通じやすい |
意思決定 | やや遅い | 早い |
資金力 | 多い | やや少ない |
※上記の表は単なる特徴であり、必ずしもそうであることを意味しません

(C)Flicker_Mack Male
スタートアップに受かったら
私の場合はインターンで半年の仕事をしたので、大学を「休学」という形で就業しましたが、その就業中にいくつかやっておかなくてはいけないことがあります。
まず、正式にスタートアップからオファーを受けたら、労働契約書(Arbeitsvertrag)のサインから始まります。正式に何月何日から労働をスタート、という期日が設定されると、それまでに家探しをしなくてはいけません。
家探しは基本的に自分の力で行う必要があります。半年だけの賃貸契約の場合、短期のWGやZwischenmieteなどを活用することになるわけですが、住人による面接が場合によっては職探しの面接よりハードなことも・・特に、正規雇用でない場合家主側も家賃をとりっぱぐれる危険があるので、中々貸し出してくれません。最悪の場合、多少高額でもAirBnbなどを用いることになります。
ポイント | 家の契約などは自分で行う必要があるので早めに行動! |
仕事の風景
スタートアップ企業内での社風は非常にフレキシブルなものでした。出社、退勤に縛りはなく、一日何時間という決められた枠の中で7時に出社しようが10時に出社しようが問題ない環境でした。
データの分析がメインの仕事であるため、場合によっては在宅でリモートでやれないこともないのですが、意外にも「出社」が条件でした。これは、スタートアップと言う会社の特色上、若い社員や学生が多く、コントロールするために原則として出社を義務付けているパターンのようです。
同じような理由で、通常のドイツの会社は「社員の裁量に任せる」部分が多いのですが、スタートアップの場合割と上からの指示が多い印象でした。あくまで体験談ですので、企業によっては異なるかも知れません。
ポイント | スタートアップの場合、大手に比べて指示が細かく自身の裁量が少なく感じる |
待遇とインターン終了後
ドイツの場合、3ヶ月を越えるインターンシップの場合最低時給が発生します。この場合、フルタイムで1ヶ月働くと2000€(日本円で30万円~35万円以上)程度の給与となり、生活費を含めてカバーするには申し分のない金額と言えるでしょう。
一方、3ヶ月を下回るインターンの場合、この最低時給が適用されない場合もあります。そのため、企業側は3ヶ月すれすれでインターン雇用し、月収1000€くらいで頑張って働いてもらいたがることもあります。
さて、インターンはスタートアップ企業側にとっては安価な労働力の確保である他、将来的な有能な人員の青田刈りのチャンスでもあります。そのため、多くの場合長期インターン=選考も兼ねており、終了時に成果が出ていればオファーの声がかかります。
もっとも、学生側にも選ぶ権利はありますし、インターンの経験を踏み台にして更に好待遇の別企業でオファーを貰えるチャンスでもあります。大企業と比べるとやはり、企業のストラクチャーや研修部分の弱さが目立つこともあるので、実際にインターンを通じてその辺の判断が下せると良いでしょう。