ドイツへの移住を目指す人々の一つのマイルストーンにもなる「ドイツの永住権」。これを一度取得すると、特定の会社や雇用条件に紐づかず基本的にはドイツで自由に仕事をすることが可能になり、給付金などにもアクセスが可能となります。要するにドイツ人とほぼ同等の扱いを受けられる権利を要するこの「永住権」ですが、取得条件、失効条件など人によって異なるうえ、あまり知られていない点も少なくありません。今回の記事では、ドイツで永住権を取得する条件、そして失効する危険のある行為について解説をおこないます。
※個々人の条件によって永住権取得の条件は異なり、最終的な判断は外人局に委ねられることとなります。
ドイツの永住権とは
そもそもドイツにおける厳密な永住権というものは存在なく「Niederlassungserlaubnis」と呼ばれる無期限滞在ビザが最も我々の想像する永住権に近い形態の滞在許可証にあたります。
この永住権を得た場合、外国人であっても以下のような特権を得られるようになります。
- 無制限の就労機会(会社名や雇用形態に囚われない)
- EU内の移動の自由(ただし、他国での労働を許可するものではない)
- 政府の給付金への無制限のアクセス(失業保険、疾病手当等)
- ドイツへの滞在目的に縛られなくなる(学業なども可能)
- ローンなどを組むことが可能に
この中でも、特に「無制限の就労機会」の部分は日本人にとっては重要です。ドイツに来たての頃は雇用契約書に紐づく就労ビザとなるため、転職の際にまた外人局にいくことになったり、雇用形態によっては就労ビザを更新してもらえない、ドイツの会社から採用を得づらい、などの支障をきたしますが、この永住権を得ることでこれらの問題が解消されるわけです。
つまり、転職のたびに移民局に申し出をする必要もなくなりますし、フリーランスとして働くこと、法人を設立してビジネスをおこなうことなどもしやすくなります。
ドイツの永住権の取得方法
永住権取得の条件は人によって異なりますが、原則的には以下の2点を充足することとなります。
- ドイツにおける60カ月の法定年金の支払い
- 十分なドイツ語、ドイツ文化の習得
前者に関しては、ドイツで5年間労働と納税をおこなったか、と読み替えても良いかも知れません。後述の通り、様々な例外的措置によってこの5年間の制約は短くなることがありますが、基本的には「ドイツの永住権を取得したければドイツで5年働くこと」が条件となります。
後者に関しては、語学力B1レベルの認証試験が必要で、すでに大学入学の際に資格を入手している場合は免除されるケースがあります。
期間、試験の有無、その他特殊条件(年収、滞在期間)などは最終的には外人局の判断にゆだねられることもあり、仮に全ての条件を満たしていても永住権の発行が遅れたり、その他の書類提出を求められることもあります。
60ヶ月ルールが緩和される条件
永住権を申請する人すべてがこの60カ月の条件を満たすわけではありません。特定の条件下では60ヶ月よりも少ない年金の支払いで永住権の申請がおこなえるケースがあります。
※以下に記載するのはあくまで一般的なカテゴリであり、最終的にどれくらい期間が軽減されるかなどは移民局の判断によります。
ブルーカード保持者
ドイツだけでなく、EU各国で優遇措置のほどこされているブルーカード保持者の場合、ドイツでの強制保険加入期間がわずか27カ月(ドイツ語に堪能な場合21ヶ月)で永住権の申請がおこなえるようになります。
熟練労働者
ブルーカードでなくても、熟練労働者(IT、エンジニア、医療従事者等々)としての条件を満たす場合、60カ月ではなく36カ月の強制保険加入期間ののち永住権の申請がおこなえるようになります。
実際にどの仕事が熟練労働者と見なされるかは給与水準や専門分野に加え、及び移民局の判断によるところが大きいと言えます。
現地の大学卒業、または職業訓練経験者
ドイツの大学や大学院を卒業、または職業訓練を行った場合も強制保険加入期間の軽減措置がおこなわれます。
その他条件
ドイツ人配偶者を持っている者、すでに永住権を取得した者の配偶者、ドイツ企業の役員、自営業者などにも条件に応じて強制保険加入期間60カ月の軽減措置がおこなわれます。
ドイツの永住権はどのように失効する?
冒頭で示した通り、厳密には永住権ではなく「無期限滞在ビザ」であり、条件次第ではこのビザは失効するということに気をつけなくてはいけません。重大な犯罪をおかした時などもそうですが、永住権取得者が永住権を失いやすい一番の理由は「ドイツ国外への半年以上の滞在」です。
60歳に達している場合や、EU永住権を取得している場合などを除くと、5年間頑張って納税をおこなって取得した永住権はわずか半年ドイツ国外に出国しているだけで失効することとなります(ただし、止むを得ない事情などの場合救済措置アリ)。
もう少し取得難易度の高い「EU永住権」を取得するとこのハードルは少し緩和されることとなりますが、いずれにせよ長くドイツを出国したままにしていると失効することに変わりはありません。
ドイツ移住を目指す多くの人にとって一つの目標となる「永住権」ですが、取得後もずっとドイツに住所を残し続けなければいけないことを考えると、実は使い勝手が良くないようにも思えます。自身のキャリアプラン、パートナーの意向などを踏まえ、最終的にドイツの永住権を目指すべきなのはどうかは判断すべきでしょう。