ドイツ在住の文筆家 Yoko Morgenstern さんインタビュー(こぼれ話)

*このブログ記事にはPR商品が含まれています。該当のリンクをクリックすることで当社に利益が生じる可能性もあることをご理解の上お楽しみくださいませ。

現在ドイツ在住、デビューはアメリカ、英語で小説を執筆し文筆家として活躍するYoko Morgenstern さんをインタビューしました。本誌では掲載しきれなかった葛飾北斎の娘「応為(おうい)」をテーマにしたフィクション小説の2作の翻訳に関するお話をご紹介します。(インタビュー本文:NIPPONip vol.76)

葛飾北斎とその娘、応為

葛飾北斎は、日本はもちろん世界でも高く評価される浮世絵師です。

2025年はまさに「北斎イヤー」。大河ドラマでは蔦屋重三郎を主役にした「べらぼう」が人気を博しています。この蔦重は、数々の浮世絵師をサポートしました。そのなかには、勝川春朗を名乗っていた若かりし北斎も含まれています。

渋谷の東急プラザでは、冨嶽三十六景を超没入型で体験できるイベント『HOKUSAI:ANOTHER STORY in TOKYO』が6月1日まで開催されました。さらに、上野の森美術館では7月6日まで『五大浮世絵師展―歌麿・写楽・北斎・広重・国芳』が開催中です。

そして10月には、応為を主人公にした時代劇映画『おーい、応為』*(2025年10月17日公開予定/監督:大森立嗣、原作:飯島虚心・杉浦日向子)が上映される予定です。

ドイツでは、バイエルン州立図書館で『Farben Japans』が開催されています。歌麿、広重、芳年、巴水、北斎などの著名な日本の芸術家の作品、木版画が展示され、ワークショップも行われています。(2025年3月27日から7月6日まで)

昨年になりますが、ケルンの日本文化会館では『Manga Hokusai』 現代日本マンガから見た『北斎漫画』 が開催され、貴重な原画が展示されていました。(2024年10月04日 から 2024年11月30日まで)

*2025年10月17日公開予定:監督 大森立嗣  原作 飯島虚心| 杉浦日向子)

そんな北斎と並んで、近年注目を集めているのが、彼の娘であり弟子でもあった「葛飾応為(おうい)」です。

応為の物語を掘り起こす、2つの歴史フィクション作品

著:Katherine Govier 翻訳:Yoko Morgenstern 出版:彩流社

父の葛飾北斎を支え、ともに芸術を生み出した娘「応為」。天才・北斎が「自分が描く美人画は阿栄( 応為 )には及ばない」と語ったとも伝えられるほどに才のあった女性画家です。 その名前、素性は知られていたものの、これまでは歴史の陰に埋もれていた存在で語られることも研究されることもほぼありませんでした。

応為が生きた時代は、父が北斎という恵まれた家庭環境であっても、なかなか女性が活躍できる場がなかった時代。そんななか、当時の「あるべき女性の形」ではないが、自分らしさを貫いています。

そんな応為の人生に魅せられたカナダ人作家・キャサリン・ゴヴィエ氏は、5年かけて調査を重ね、小説『The Ghost Brush(邦題:北斎と応為)上下巻』(彩流社2014年)を2014年に発表しました。

そして2025年5月には、第二弾といえる『Red Fuji(邦題:赤富士と応為、そしてボストンの男たち)』(彩流社2025年)が出版されました。

本書は、亡霊となることで明治の時代を死後に眺め続ける応為と三人のボストン人との関わりを描き、忍びながら華やいだ絵筆の後の浮世絵流出の姿と女性絵師の密やかでありながら光を燈し続けた復活を描く物語である。(彩流社内容紹介から抜粋)

*なお、1983年〜87年・漫画サンデー(実業之日本社)で連載された杉浦日向子氏の百日紅は、数少ない応為 をテーマにした作品の先駆けです。

「帰国子女でなくても翻訳はできる」── 翻訳者・モーゲンスタンさんの挑戦

どちらの作品も翻訳を担当したのは、「帰国子女でもなく、21歳まで海外に出たこともありませんでした。英語が得意というわけでもなかったけれど、国語が好きでした。」というモーゲンスタンさん。

本誌のインタビュー記事では掲載しきれなかった翻訳した小説、翻訳というお仕事についてお話しいただきました。

シリーズ翻訳をてがけて

最初の本「『北斎と応為』」の翻訳に着手したのは2011年。そのころは葛飾応為(阿栄)についての情報は探してもあまり見当たらなかったんです。杉浦さんの百日紅で出てきていたくらいでしょうか。 学術の世界でも、一般でも全く取り上げられなかった応為の功績ですが、現在は小説、アニメ、漫画や映画でも、応為の名前、そして功績が少しずつ表舞台に出始めています。

ある意味、北斎の影に隠れていた応為を、表舞台に引き出し学術界でも重要な役目を果たした功績ある作品です。

1作目、2作目の著者後書きにもありますが、2006年、ゴヴィエ氏が応為を知るきっかけとなったワシントンD .C.のフリーア美術館のシンポジウムでは、応為の名を口にする学者は皆無だったんです。

それが2017年大英博物館のシンポジウムでは盛んに応為の名前が取り沙汰されるようになった。これはその間に発売されたThe Ghost Brush の功績だと確信していますが、ゴヴィエ氏の名を挙げる学者は一人もいない。私もゴヴィエ氏と一緒に聴講していましたが、歯痒い思いをしました。

ですから、その晩の基調講演でニューヨークのメトロポリタン美術館の日本美術キュレーターであるジョン・カーペンター博士が講堂の客席にいるゴヴィエ氏を見つけ、「過去五年間で応為に注目が集まるようになったのはあなたのおかげですよ、キャサリン!」と壇上から呼びかけたときは、胸がスカッとしました。

このような歴史的に重要な作品を翻訳することができて本当に光栄に思っています。

シリーズ翻訳で最も気をつけたことは?

これらの本の翻訳で最も気をつけた点は、英語から日本語への翻訳だけではなく「江戸時代の言葉遣い」や「当時の表現」です。翻訳よりも江戸の文化を学ぶことの方が大変でした。

第二弾にあたる『赤富士と応為〜』では、前作の江戸の街から、舞台が明治日本およびボストンやパリ・ロンドンに移りました。今場面に合わせた言葉を使った方が自然になると考えたため、前作とはまた違う言葉遣いで表現するようにしました。

「ボストンの男たち」が語る、日本美術と海外の意外な関係

浮世絵はとくに海外への流出が多いと言われますが、特に“ボストン美術館”が所蔵する日本美術品の多さに驚いた方も多いのではないでしょうか?

なぜアメリカ・ボストンに日本美術の世界的コレクションがあるのか、本作では、その秘密が描かれているので、フィクション小説としてお楽しみいただけるうえに歴史的な背景もご覧いただけます。

応為という“現代的な女性像”

本作で描かれる応為は、信念があり、強く、才能に満ちた現代的な女性。“北斎の娘”ではなく、“自分の作品”として評価されたいという強い気持ちを持っていました。

男尊女卑が色濃く残る江戸時代、女性が画家として活躍するのは至難の業。そんな中、応為は“自分らしさ”を貫きました。杉浦版とゴヴィエ版で描かれる応為像は異なりますが、それこそがフィクションの面白さでもあります。両方読んで、ぜひ楽しんでほしいです。


モーゲンスタン陽子 (Yoko Morgenstern)

カナダ、アメリカ、日本、ドイツを基盤に創作活動・翻訳を行い、日本ペンクラブ、ヨーロッパ著作家協会 (Die KOGGE) 公式会員。 Newsweek日本版ウェブサイト、NewSphereなどで定期的に執筆。東京都出身。筑波大学政治学学士、シェリダンカレッジ(カナダ)でジャーナリズムのディプロマ、バンベルク大学院(ドイツ)にて英米文学の修士号取得。1998年以降おもにカナダとドイツで暮らし、2011年よりドイツ在住。

著書紹介
短編集  『A Perfect Day to Die』 (Guernica Editions カナダ)
小説  『 Double Exile』 (Red Giant Books アメリカ)
単行本 『英語の雑談力があがるちょっとしたフレーズ』(幻冬舎 日本)
翻訳 『北斎と応為(幻冬舎 日本)
翻訳 赤富士と応為、そしてボストンの男たち』(幻冬舎 日本)
各出版作品ドイツアマゾン(リンク)、日本アマゾン(リンク

2025年現在、バンベルク大学・英語講師。個人・企業対象で英語のレッスンも実施中。お問合わせは公式HPもしくはメール yoko724 *gmail.com から直接ご連絡ください。 *を@に変更




こんな記事も読まれています

美容コスメ 関連記事

食・食材 関連記事

ドイツ生活 関連記事

error: Content is protected !!