入るのが簡単で出るのが難しい、と呼ばれる海外の大学・大学院ですが、実際には海外の名門と呼ばれる大学に入学しようとすると「入るのも出るのも難しい」というのが実態です。ドイツの有名大学院に入学した私の個人体験を元に、日本人が特に気を付けるべき入学要件と選定方法について解説をおこないます。
ドイツの大学院・・どのくらいの成績なら合格できる?
まずドイツの大学院の立ち位置ですが、理系・文系問わずドイツの学部卒業生の半分近くが大学院に進学しており、文系の大学院進学率が低い日本とは異なります。理由としては、ドイツ社会が「その道のプロ」を育てる社会的土壌を持つため、大学では総合的な知識を学び、大学院ではそれを更に専門化させる、というプロセスをとるわけです。
大学院卒業者は年収・昇格ともに学部生と比較して「多少優遇」される傾向にありますが、業界によっては知識よりも現場の実績が大きく求められるため、大学院に行かずにそのまま就職する層も一定数存在します(特にIT、デザイン、マーケティング等の領域)。いずれにせよ、ドイツの大学院とは「大学進学をしたドイツ人エリート層のなかの、さらに上澄みが集まる」ところであり、入学のための競争率が激しいことを理解する必要があります。
大学院に進学したほうが生涯年収が高くなる(可能性が高い)学部
- 法学部
- 物流や購買
- 金融、会計
- 自然科学
大学院に進学すると生涯年収が低くなる(可能性が高い)学部
- 営業
- 人事
- 建築
- IT
- マーケティング
大学にもよりますが、「法律」「エンジニア」「経営・経済」あたりは大学の中でも人気学科で、特に応募する生徒の数が多い分野と言えます。大学院としても全員を合格させるわけにはいかないので、試験や書類審査である程度ふるいにかけるのですが、そのうち特に比重が高いのが「GPA」の数値です。
人気の大学、人気の学部であれば、学部時代の成績がGPA3以上、場合によっては3.5以上が求められます。逆に、不人気の学部などではGPA2~3などでも応募を受け付けているところもあったり、その他職歴などを勘案して多少ゲタをはかせてくれるなど、大学次第のところもあります。
ドイツの大学院入学に必要な要件
基準 | コメント | |
ドイツ語 | B2~C1 | 授業が全て英語など、学部によっては不要 |
英語 | B2~C1 | 学部によっては不要 |
修士に関連する学士号 | – | ほぼ必須 |
GPA | 3.0以上が目安 | 学部によっては低くても応募可能 |
学部時代の特定の講義の証明 | 例:30単位以上、等 | 課されないこともある |
面接 | – | 課されないこともある |
実技経験 | インターンや仕事の経験(1~3年) | 課されないこともある |
その他試験 | GMAT等 | 課されないこともある |
このあたりの必要要件は完全に「学部による」ということで、人気大学であればドイツ語C1 、英語C1、GPA3.5以上、要GMATのような厳しい要件を課してくるところもあります。
例えば、以下は経営学で有名なマンハイム大学大学院の募集要項
応募の必須要件:
- 経営学に関連する学士(180単位以上)
- そのうち、経営学に特化した単位(36単位以上)
- 英語C1
- ドイツ語C1
選考における評価基準と比重:
- 学部の成績(GPA) 60点
- GMAT600点以上 60点
- 留学経験 22点
- 職歴・インターン 6点
重要なのは「必須要件」を満たすだけではあくまで応募できるだけで、実際に合格できるかは上記の評価基準に沿って計算されるということです。上記のマンハイム大学の場合GPAによる足切りは設けられていませんが、評価の際に「60点」という大きな比重を持つため、やはり3.0以上くらいは必要でしょう。
大学の質とランキング
ドイツには大学偏差値のようなものがなく、国際的な大学ランキングであるTimes Higher EducationやQS Ranking、あるいはドイツの大学ランキングであるCHE Rankingなどを用いるか、自身の研究対象となる教授などがいる大学院を応募することとなります。
ポイントとして、こうしたランキングは大学別ではなく「学部別」に参照することが重要です。例えば、QS大学ランキングでドイツトップの大学は理系最高峰のミュンヘン工科大学ですが、経営学部や会計学部など学部を絞ると上述の「マンハイム大学」がトップに躍り出ます。
また、大学ランキングは「研究の質」や「就職先の評価」といった就職に役立ちそうなポイントから、「留学生の多さ」や「学生と教授の割合」「持続性」といったどちらかと言えば大学の人気に関係しそうな指標まで混在しており、大学ランキング上位=必ずしも自分の求める専攻における権威、というわけではありません。
QS大学ランキングにおける2023年のドイツ大学ランク:
1位 | ミュンヘン工科大学 |
2位 | ミュンヘン大学 |
3位 | ハイデルベルク大学 |
4位 | ベルリン自由大学 |
5位 | フンボルト大学 |
6位 | カールスルーエ大学 |
7位 | アーヘン工科大学 |
8位 | ベルリン工科大学 |
9位 | チュービンゲン大学 |
10位 | フライブルグ大学 |
上述の通り、ドイツにおけるトップ10校には経営学の名門であるマンハイムやミュンスター、人文のフランクフルトゲーテ大学、経済学のケルン大学やゲッティンゲン大学等、法律のハンブルグ大学等は含まれていません。
あくまで、大学ランキングのような総合指標にとらわれるのではなく、自身のやりたいことや将来のキャリアプランと関連した大学や専攻を選ぶと良いでしょう。