ドイツの経営系大学院を卒業後、ドイツの大手メーカーで3年勤め、その後在独日系企業に転職した私のドイツ就職日記第二回となる本稿では、インターンシップの重要性と開始前の準備について詳しくお話しします。
ヨーロッパの学生がインターンシップをおこなう効果は絶大です。 インターン終了後半年以内に69%が就職先を得ることになり、大学院や博士号へ進学した者などの割合を除けば、インターン後の非就業率はわずか6%という低い数値を示しています。
もっとも、インターンをおこなったからと言って必ずしもその企業での内定が得られるとは限りません。また、インターンを通じてその企業の業務内容が自分にあわないと察することもあるでしょう。
インターンから本採用になる確率
インターン制度は、雇用される側の学生にも「実務経験を身に着ける」というポジティブな要素がある一方で、企業からしてみたら将来有望な学生を囲い込むことができる、資質を確かめることができる、等人事上の利点を持っています。
特に、ドイツの労働法は厳しく、一度本採用をしてしまうと簡単に解雇ができない仕組みとなっています。性格や資質の不一致を予め防ぐためにも、このようにインターン制度を通じてフィルタリングすることは、企業側のリスクを避ける上でも役立つのです。
学生 | 企業側 | |
メリット | 実務経験を身につけられる
職の不一致を防げる |
有能な学生を囲い込むことができる
本採用の前に応募者の資質を確かめられる |
デメリット | 給与が安い | 給与を支払わなくてはいけない |
さて、このような「基本的に採用を前提とした」システムであることから、インターン後にその企業で本採用となる割合は高く、全体の39%と言われています。逆に、残りの61%は、企業側から本採用のオファーが無かったり、学生側の希望する業務内容では無かったり、やはり進学することにした、といった様々な理由が含まれています。
インターンで本採用になるには
実務主義、成果主義のドイツ社会ですが、それでも学生のような若者に全く手心を加えないわけではありません。研修生やジュニア・マネージャー職のような年次の浅く給与水準も低いようなポジションの場合、ハードスキル、ソフトスキル、将来性の総合的な評価がなされることとなります。
- インターンを通じた成果・実績
- 積極性
- インターンを通じてのチームワークやコミュニケーション
最終的に私は、ドイツの大手メーカーでのインターンを経て本内定をもらうこととなりましたが、インターン生にとって重要な上記の3つを満たしたことが内定の理由だったと、後に上司から聞かされました。
インターンの準備と学生の頭を悩ませる事務処理問題
時系列をインターン内定の電話がかかってきた時に戻しましょう。
事務的な電話で、人事から確認されたことは「いつから働けるか?」という点です。企業からすれば、早ければ早い方がいいわけですが、学生側には様々な事情があり、明日・明後日から開始という訳にはいきません。
恐らく、私のような外国人インターン生にとって最大の問題は「引っ越し」です。基本的にドイツの企業は引っ越しのような個人作業については他人事で、見知らぬ土地(特にメーカーの場合僻地であることが多い)に引っ越す際にも住居は自分で探してね、というスタンスです。また、今住んでいる家をどうするかの問題もあります。
インターン開始までに学生がやらなくてはいけないこと:
- 現行の家の処理
- 新しい住居の確保
- 休学申請
半年分の家賃は馬鹿になりません。とはいえ、ドイツで住居の確保は難しく、一度住んでいる家を手放すと、またインターンを終えて帰ってきた時に住むところがなくなります。というわけで、現行住んでいる住所に関しては、期間付きで誰かにまた貸しする「Zwischenmiete」という方法が有効です。
新しい住居に関しては、もはやどうすることもできないので、インターネットなどを通じてひたすら総当たりで聞き込みをおこなうこととなります。また、現地の社員の力を借りて、知り合いに声掛けしてもらうこともあり、私の場合それで何とか見つけることができました。
最後に、休学申請ですが、この申請にはインターンの契約書が必要となります。基本的には学生課に足を運んでおこなうこととなるので、インターンの始まる前に処理しておきましょう。
インターンの開始
私にとって初めてのドイツでの職歴となる、ドイツの企業におけるインターンが開始されました。従業員5000人程度、NRWに本拠地を構える国際的なドイツ企業で、世界80ヵ国に顧客を持つB to Bメーカーです。驚くべきことに、日本でも知る人の多いこのような企業であっても、業務の一部が私のような「学生インターン」の手に委ねられていることが少なくないということです。
とはいえ、業務の根幹に携わるような仕事に触れることはインターンの段階ではあまりありません。要するに、「なくてもなんとかなるだろう」という系の仕事に振り当てられることが多いと言えます。具体的には、経営や経済学、法律の学生であれば、代替可能な書類作成系、データ分析系、ビジネスデベロップメント系、新規開拓系の仕事です。
私の場合、ドイツの生産から各北米・アジアに販売される自社製品の最終工程に至るまでの商流と付加価値の分析を国ごとにおこなうタスクが割り振られました。現地の文書の翻訳(AI翻訳などを用いる)、現地のインポーターへのインタビュー、等を通じて、新規製品を販売した場合の売れ行きの分析までを定量化しておこないます。
恐ろしいことに、手法、コミュニケーションは全て「任せる」という状況で、レポートを期間内にひたすら完成させることがノルマとして課せられました。製品の強みや販売価格に関する情報は与えられましたが、その他原価などはインターン生には企業秘密として与えられず、限られた情報から最適化された輸出チャネルを計算することとなります。
企業を支えるインターン生の「ブラック労働」
ドイツの正社員は厳格な労働法によって守られていますが、インターン生は(多少のルール・制限はあるにせよ)、企業にとって首切りの対象にしやすく、またインターン終了後に「本採用しない」という選択肢も残っています。
勿論、インターン生は有給を使う権利も残業しない権利もあるわけですが、慣れない仕事で期間内に成果を出さなくてはいけないというプレッシャーから、「サービス残業」に手を染めるインターン生も少なくありません。特に、インターン生と雇用側の力関係が歴然とした大手企業では常態化しています。
私の肌感覚ですが、インターン生に課せられるタスクは、「背伸びすればイケる」くらいの絶妙なラインを攻めてくることが多く、ここでの頑張りが本採用に繋がるかどうかのカギを分けるのではないかと思います。
インターン初めの1~2ヶ月ほど、私は進捗の遅さに怒られることが多い状況でした。上司からしたら、欲しい数値や情報は相手に嫌な顔をされてでも勝ち取ってこい、とのことで、社内・社外を問わずメール、電話、訪問を駆使して分析に必要なデータをあらゆるチャネルから獲得してくる努力を続けました。
肉体的、精神的に疲弊し始めた4~5ヶ月目になると上司からも徐々に怒られる頻度が減り、最終的に上職数人へのプレゼンを持ってインターンは完了。結果として学生である私の調べたデータに基づいて、1億円程度の動く決断がなされることとなりました。この時点で会社側からは正式に卒業後、うちで働いてくれというオファーがくることとなります。
(ちなみに、私と同時期にインターンをおこなっていたインド人の学生は、労働条件が良いという理由でアメリカ企業に移りました)
次回へ続く