今回は、ドイツで邦人の心の問題や日常生活を過ごしづらい人のためのサポートをする心理士として、ドイツで活躍する2名の先生にオンラインインタビューを実施しました。これから心理士を目指す方、同業者としてドイツ・海外で頑張りたいと思う方に本記事が、その一助となれば幸いです。
メンタルヘルスへの関心は日本でも高まっていますが、ドイツでも同様に需要が高まっています。また心理士という職業を進路の選択肢として選ぶ人も多くなりました。日本からもドイツで心理士を学ぶ留学生や実際にドイツで就職する人も増えいます。
在独邦人にとっては、日本語が話せて、日本の文化もドイツの文化も理解できる心理士の先生はとても心強い存在です。
ところで、「心理士」といっても、その実践領域は多岐にわたり、対象とするクライアント(患者)やアプローチの違いによって、日々の業務や求められる資質は大きく異なります。
成人を対象にカウンセリングを行う臨床心理士、子どもおよびその保護者への支援を専門とする心理士など、心のケアという点では同じですが、その役割やアプローチの仕方、働き方は違います。
NIPPONip 79号「発達障害・発達特性の当人と家族のドイツでのサポート」特集」でご紹介したドイツで活躍する心理士に対して同一の質問を投げかけることで、それぞれがどのような経緯でこの職業に至り、どのような考え方で活動されているかをご紹介します。
臨床心理士という職業(到達点)は同じですが、それまでの道のりや実践領域は違っています。職業に従事することで重要なことは、実践と研鑽を積んでいるのはもちろんですが、「自分自身のメンタルヘルスを安定させる」という点も大切なことだという共通点もあり、また対象者の環境の違いによっては、じっくりと長期間時間をかけられる場合と数年単位で短・中期のケアになるためそのアプローチ方法も異なります。
これから心理士を目指す方や日本からドイツ・海外で活躍しようと思っている場合「どのようにこの道に進むのか」、「どのような違いがあるのか」が具体的にイメージできるのではないでしょうか。
ホーネカムプ山本 有 先生
成人を主に対象としている:ドイツ国家公認心理療法士。1992年渡独し大学で心理学を学ぶ。現在は保険診療指定医としてデュースブルグ市内で個人開業している。
鈴木 夏美先生
主にこどもおよびその保護者を対象としている:臨床心理士(日本)アメリカの大学で心理学を学び、日本の大学院で臨床心理学修士を取得。療育機関や児童相談所、警察などで、心理・知的発達検査を実施したり、発達障害児へのABA(応用行動分析)をベースとした個別・小集団療育を行う。また、企業でうつ病予防のためのストレスマネジメントプログラムを実施。2022年に渡独。日本心理臨床学会会員。特別支援や子ども相談に携わる。
連絡先 HP:Global Kids Mind のお問合せフォームから。インスタグラムのアカウント @global.kids.mind 。
以下にそれぞれの先生の回答を掲載します。 以下の項目下の 〜先生の回答 をクリックするとそれぞれの先生の各質問の項目にとびます。
・ホーネカムプ山本先生の回答 ・鈴木先生の回答
Q1 心理士という職業に興味を持ったきっかけは何でしたか?
・ホーネカムプ山本先生の回答 ・鈴木先生の回答
Q2 大学・大学院でどのような分野を学ばれましたか?
Q3 取得された心理士資格と、その国・制度について教えてください。
Q4 ご自身の専門分野や得意とする支援領域は何ですか。
Q5 現在の職業までの主なステップ(資格取得、研修、就職活動はどのように、など)を教えてください。
Q6 現在どのような業務を担当されていますか。
Q7日本人学校(もしくは現地校)で心理支援を行う仕事には、どのような特徴がありますか。
Q8 日本の学校や海外の教育環境との違いを感じる点があれば教えてください。
Q9 ドイツでこの仕事をしていて、やりがいを感じる瞬間、また逆に難しさや課題を感じる場面はありますか。
Q10ドイツで心理関連職を目指す場合、どのような準備(資格、語学、経験など)が重要でしょうか。
最後に、ドイツで心理職として働くことを目指す人へアドバイスやメッセージをお願いします。
ホーネカムプ山本先生の回答
ホーネカムプ山本先生、以下、ホ:仲の良かった同級生が高校卒業時に自死*したことが一番大きなきっかけだったと思います。
ホ:2年間在籍した日本の大学では哲学と心理学、その後在籍したドイツの大学では心理学を学びました。
ホ: ドイツには心理療法士のライセンスが二種類あります。
私が所持する(ドイツの)心理療法士の資格は、厳密には「心理学的心理療法士」と呼ばれ、大学で心理学を修了した者に与えられるもので、精神科や心療内科の医師が取得できる心理療法士のライセンスと区別されます。
以下、私が取得した方の資格について説明します。ドイツにおける心理学的心理療法士の国家資格というのは、専門医の開業資格に準ずるとても厳格で高度なものです。当時の法制度(2020年以降法改正されたのでご注意を!)のもとではまず心理学ディプロムを修了し、4200時間の研修を受けたのちに国家試験に合格することで、Approbation(医師開業免許)が授与されます。
この4200時間には病院の精神科や心療内科などでの実習、理論講習、自己分析(自分の研修分野の専門家から自ら治療を受けること)、スーパービジョンの下で実際に治療を行うこと(実技研修)などが含まれます。
現在ドイツの公的保険で費用がカバーされるのは精神分析、精神分析的深層心理療法、認知行動療法、システム家族療法の4種類ですが、私が学んだ精神分析と精神分析的深層心理療法では自己分析のプロセスを重要視するため、研修義務の数倍の計500時間以上の訓練分析を週に3回受けていました。
成人の心理療法士の資格取得は、医学または心理学を大学で修了した人に限定されますが、児童青少年専門心理療法士の資格は、社会教育学などの修士でも取得できます。
ホ:成人向けの精神分析、精神分析的深層心理療法、情動誘導療法(KIP)とよばれるイメージ療法、催眠療法、トラウマ療法などが主な領域です。患者さんはだいたいドイツ人7割、日本人が3割くらいです。その他、日本人学校で嘱託スクールカウンセラーとして月に一度勤務しています。大学在学中の頃より関わっていたホスピスやターミナルケア病棟でのターミナルケア、遺族カウンセリング、大学での講師の仕事は開業前まで続けていました。
ホ:資格取得までのステップは上記Q3の通りです。
4200時間の研修時間では費用の負担が重く(訓練分析は自費、病院の実習では報酬がほぼゼロ、患者の治療を開始した段階から治療費の一部が自分の収入となった。認知行動療法の研修の場合は費用の負担が比較的軽いといわれる。法改正後、研修中の経済的負担は軽減されている)、研修を受けながら生活するには病院やホスピス、大学での仕事が絶対に必要でした。
終了後は国家試験を受け、幸いにもその後すぐに保険診療の開業枠がもらえたので迷わず開業しました。心理療法士が行う治療に対しては、公的保険をはじめとするすべての健康保険が適用となります。個人開業が多く、その場合受付スタッフを雇う余裕がないため、患者の受付、診断行為、トリアージ、医師やその他の医療従事者とのやり取り、治療行為、行政当局への対応、診断書の発行、保険会社や裁判所などへ出す書類作成、煩雑な事務処理や保険点数の計算処理、トラブル対応、経理、税務申告などのすべてに単独で責任を負います。
なお、非医師のため薬の処方と就労不能証明の発行は許可されません。
私の本業は健康保険を使った精神治療ですが、児童青少年の治療(ライセンスはないが開業免許があるため治療を行うことは許可されている)を行ったり、若い同僚やホスピスのスタッフ向けにスーパービジョンをしたり、頼まれれば講演をしたりもします。かつて実習をした病院から残ってほしいといわれてそのままそこで勤務したり、大学での講師は知り合いから頼まれたり、資格取得のための研修後はすぐに開業したため、就職活動は特に必要ありませんでした。
ドイツの心理士の資格において、日本との制度とのおそらく一番大きな相違点は、開業であれ病院勤務の場合であれ、精神医療を担う専門職として、診断から治療終了までのすべてに責任を負うことだと思います。
ホ:私が関わっている日本人学校は、ドイツの中で、人口比に対して最も日本人率の高いといわれるデュッセルドルフ市にあります。そもそもは教育相談の担当として、前任から引き継ぎましたが、現在は保護者および児童生徒のメンタルヘルスのサポート全般に関わるようになりました。
海外生活でメンタルのバランスを崩すことがあるのは誰にでもあることですので、メンタルに不調を覚えた教員から相談を受けることもありますし、校内で起こったトラブルなどの際に現地の行政当局や社会保険、福祉関連の当局とドイツ語でのコミュニケーションのサポートをすることもあります。
またデュッセルドルフの日本人学校ではここ数年、管理職、教員、日本の資格を持つ心理職などが専門チームを組んで包括的に取り組んできた特別支援活動がさらに進み、これまですでに実績を上げている通級に加え今年度からは特別支援学級が新たに設置されました。私もその専門チームの一員としてお手伝いをしています。
発達障碍を持つ児童生徒へのサポート以外にも、いじめや不登校の問題など、さまざまな対応案件が日本人学校においても当然のことながら生じますが、在外教育施設ゆえの日本の支援制度へのアクセスへの難しさから臨機応変な対応を迫られることも多いです。案件によっては、ドイツの社会資源にスムーズにつなげるお手伝いをすることも、大事な仕事の一部です。
鈴:ホ: 共同回答
ドイツは人口の4分の1が移民背景を持つといわれる多文化共生社会で、移民度が高い地域と低い地域があります。公用語はドイツ語です。国語(ドイツ語)能力を十分に伸ばせないまま義務教育を修了し、就職をはじめとする社会参加が困難な生徒が一定数存在することが長年の社会問題になっています。
ドイツの教育制度では4年間の小学校を終了する段階で、その生徒のこれまでの成績を総合的に判断し、進路が決定されます。小学校1年生から留年*も飛び級も一般的なのは日本では驚かれるかもしれません。
ドイツには大学受験はなく、高校卒業時にアビトゥーア(Abitur)といわれる大学への進学資格の試験が行われ、医学(獣医学・歯学を含む)・薬学・心理学などを専攻したい場合にはこの試験でかなりの高得点を取る必要があります。このアビトゥーアを目指す生徒が小学校修了後から通うのがギムナジウム(8‐9年制)、その他実科学校、基幹学校などに分かれますが、ギムナジウム以外の学校に通う生徒にも、アビトゥーア受験資格を得る道が残されているなど、ドイツの教育制度は柔軟性に富んでいます。
また、ドイツでは昔から専門職人養成のためのマイスター制度があり、職業学校に通いながら同時に企業や職人の下で実践能力を磨くといった職業教育訓練制度が充実しています。公立の学校は基本無料で、公立大学の学費もほぼかかりません。
特に日本の大都市では常識となっている、早ければ幼稚園入園から高校・大学入学までの長期間、子供自身にもその保護者にも多大な精神的、経済的な負担を強いる「(お)受験」や、日本及びアジア圏のほかの国に見られる「学歴偏重主義」は、ドイツでは一部を除いて浸透していません。塾は、学校の勉強についていけない児童生徒が通う場所として存在します。
医学系、工学系、IT系などにおいては有名な学部(=設備と人材が充実している)を持つ大学はあるものの、最終的にドイツのどこの大学を出たということは、ドイツでは何の意味をもちません。なお、(日本でも昨今はそのようですが)、サラリーマンとして退職まで一つの企業に勤めあげたということはその人が「スキルアップせずに何十年も同じところで同じ仕事をしていた人」ととられることもあり、自らのキャリアアップや新たな課題への挑戦としての転職はごく一般的です。
日本とドイツ(ヨーロッパ諸国に共通)が、教育環境として違う点の一つに、早期からの外国語教育があるでしょう。多くは小学校から英語の授業が始まり先生は英語で授業を行います。ギムナジウムへ進学すれば外国語の授業がさらに最低2つ追加されます(日本語が選択できる学校も)。
ホ:今している仕事の全てには、その限界も含め、個人的には納得しています。やるべきことと出来ることと出来ないことの線引きがしやすいこと、制度的な規制を除き基本的には他の誰からも指示されずに仕事ができること、家庭との両立ができること、それらが私にとって必要な条件なのですが、ドイツではそれが可能です。
児童青少年・成人対象の心理療法士は専門医の報酬ランキングでは常に最下位で、他の専門医よりも報酬が圧倒的に少ないことには不平等さを感じるところです。保険適用で行う治療の方法はガイドラインにのっとったものでなくてはならない為、その時に必要と思われる治療行為がガイドラインの制約上許可されないこともあり、自分の中で理想と現実との折り合いを迫られる中、保険適用の枠内で、特に重篤な患者へのサポートをいかに効果的に行うかが常に課題となっています。
やりがいを感じる瞬間というのは(そう頻繁にはないのですが)、患者との治療の営みの中で、何かこれまでの思考・行動・情緒パターンとは別の、よりよい何かがリアルに現れる瞬間に立ち会え、そのことに共に驚いたり喜ぶことができる時でしょうか。
ホ:そもそも傾聴という行為にかなりの高度な訓練と経験を必要とすることは言わずもがなでしょう。ドイツ語話者を対象とした心理関連職を目指す場合、傾聴のみならずそれを超えた適切かつ効果的な援助行動を、ましてや母語ではない言葉で行うというためには、かなりのドイツ語の能力がどうしても必要です。
言語だけでなく非言語的なメッセージにも同様に関心を払うこと、患者との出会いの中で立ち現れるライブの雰囲気に注意を向けておくこと、患者が「今、話していること」の裏には「今、そこで話されないこと」が含まれ、そこにも十分関心を向けながら聴く、というスキルも必要です。
言語というのは、建築や芸術などと同様、文化を象徴する複雑かつ変化し続けるシステムですので、その言葉を十分に操るためにはその文化や歴史についてもある程度の知識があること、そして現在の社会情勢についても正しい知識が求められます。
また、ドイツ国内にはいろいろな文化と歴史背景が存在し、「典型的ドイツ人」というのはどこにも存在しません。それに加え、ドイツは多文化社会ですので、いろいろな国をバックグラウンドに持つ人が治療を受けにやってきます。
自分の目の前にいる患者は(どの国籍の人であれ)その人だけのパーソナルな歴史と文化が複雑に交わった、唯一無二の背景を持っています。これらの事柄はドイツにおいては無視のしようのない社会的事実ですが、日本国内では、多くの経験を積む機会がまだあまりないことかなと思います。
どのような文化を背景に持つ人に対してであっても、相手の在りように対しどれだけ自分自身を開き、自身の歴史や文化や個人的体験からくる考え方や感じ方のパターンや偏見を意識しつつもとりあえず横に置いておくことができ(研修中にさんざん個人分析を受けるのはそのためです)、相手の在りように深い敬意と好奇心をはらい続け、自分の判断基準で相手をジャッジせずに接することができるか。そしてそこに自分の限界が見えてきたときにいかに真摯に対処できるかも大切になります。
「自分とは全く別人格である患者のこころの世界には私にはわからないことが多い」という事実に耐えつつも相手のこころに寄り添い、治療の営みの中でお互いの間に何が起きているかを理解し、言語化しようとする作業にコミットし続ける、何年かけても最終到達点のないこれらのスキルを高めるべく、今日も明日も、仕事を地味に続けるという態度が求められるのです。
心理職というのは孤独で、過酷な精神労働を伴う職業です。研修を受けて専門スキルを磨くこと、熟達した先輩の治療家からのスーパービジョンを定期的に受け、自己流の偏りなどに陥っていないかなど、自分の治療行動を客観的に再検討すること、それと同時に、プライベートの生活を健やかに営むこと、自分自身のメンタルの状態をバランスよく保つために積極的であること、ということも、この仕事を長く続けるためには不可欠なことです。
ドイツでは専門職人材不足が深刻化し、高度専門職の人材を海外から呼び寄せようという努力がなされています。すでに介護・看護師、薬剤師、医師などで、海外で得た資格がドイツでも迅速に認定されるように制度改正する試みが進んでいますので、たとえば日本で得た心理士の資格もさらに簡便にドイツの資格認定される日が近いのではと期待しています。
語学スキルのハードルの高さは前述したとおりですが、日本人を対象とした日本語での治療行為は可能ですしそのニーズは高いです。専門職としてのどのような活動がドイツでは求められており、その社会的ニーズと現在自分が持つ資格とのマッチングがどのような形であれば可能かについて、行政当局などと対等の立場で、ずぶとく、説得力を持って交渉する力はドイツにおいては必要です。
ホ:ここ数年、「日本で心理士の資格を持っています、ドイツで仕事したいんですけどどうしたらいいでしょうか」という相談が突然寄せられることが増えました。どのような情報についてもインターネットやAIでかなりのところまでリサーチできる昨今、「どうしたらいいでしょうか」と言われますと、私には丸投げに聞こえてしまいます。
「自分がドイツでやりたいことはこういうことで、ここまでは調べてわかったのですが、その先のことについて何かご存じですか」と具体的に尋ねられれば、お手伝いのしようもあるのですが・・・。
自分の進路に正解というものはない中、人生のかじ取りを自分ごととして引き受け、あちこちで(時には派手に・・・)転んだり起き上がったり、泣き笑いしながら体験してきたことのひとつひとつが、私だけのオリジナルな足跡を刻んできた、とその軌跡を振り返るとき、こうなると初めからわかってたらチャレンジしなかったよねと、当時の若かりし自分の勢いの良さに呆れることもあるものの、全部ひっくるめて「これでよかったんだ」というのが実感です。大学に入って研修プログラムに参加する、自分がすでに持つ資格をこちらで認定してもらう、いずれにせよ、ドイツで心理職として働くにはかなりのチャレンジを伴いますが、そのご福として大きな充実感を得ることができます。
ドイツにおいて活躍する日本人の同僚が少しでも増えることを心から願っています。
鈴木先生の回答
鈴木先生、以下、鈴:アメリカの大学に留学時代、1番仲の良かった日本人の友人がうつっぽくなってしまい、途中で帰国することになってしまいました。その他にも、同時に留学していった同志のうち4分の3程度は外国での生活に馴染めなかったりなど、様々な事情で途中帰国したりと海外で生活することの厳しさを痛感しました。そのような経験から、異文化適応や海外に住む邦人のメンタルヘルスに関心を持つようになりました。
鈴:大学では専攻を心理学に変更し、心理学一般を広く学びました。卒業後は日本に帰国し、臨床心理士の資格が取得できる指定大学院に進学して臨床心理学を学びました。
鈴:取得した資格は、(日本の)臨床心理士です。
日本の臨床心理士資格は、日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格で、同協会が指定する大学院を修了する必要があります。大学院を修了すると受験資格が得られ、その後、所定の資格試験に合格することで臨床心理士として認定されます。
医療・教育・産業・福祉・司法の5領域にまたがって働くことができます。5年ごとに資格の再認定が必要です。
鈴:専門分野と言えるものがあるかは分かりませんが、子どもの臨床を中心に行ってきました。
院生時代にインターンで初めて担当させてもらったクライエントが自閉スペクトラム症(ASD)の子で、発達障害というものを知るきっかけになり、応用行動分析(ABA)をベースとした療育や、発達支援について学びを深めました。
その後、療育施設や児童相談所などで発達支援の仕事をしていた経験から、現在の日本人学校でも特別支援教育に関わらせていただいています。
また、「一次予防」といって、健康な人がメンタルヘルスの不調に陥らないように未然に防ぐための活動にも関心があり、企業でマンツーマンのメンタルヘルス研修も行っていました。
鈴:2022年にドイツに来て、子育てがひと段落してきた頃、何かボランティアや仕事はできないかと探していました。デュッセルドルフの『竹の会』が主催する相談会に参加した際に、ちょうど今の通級指導教室が正式にできる前段階としての『リソース・ルーム』が運用され始めた頃でした。
その部屋を立ち上げた方が私と同じく配偶者の赴任に帯同してきていた方で、日本に本帰国するタイミングで、私が後任として勤務することになりました。
日本でとった資格では、そのままドイツで「臨床心理士」として働くことはできません。
注意: 日本には、臨床心理士だけでなく、公認心理士や●●心理士、●●カウンセラーと色々な名称で心理系の資格がありますが、いずれもドイツで使える資格ではありません。ホーネカムプ先生が回答されているように、ドイツの資格に書き換える、改めてドイツの大学・大学院などで勉強して現地の資格を取ることが方法として考えられます。(ホーネカムプ山本先生の回答)
ただし、状況や契約内容によっては日本で取得した資格でも勤務できることがあるかもしれません。就労という形にとらわれないのであれば、ボランティアとして知識や経験を活かすこともできると思います。
鈴:通級指導教室や特別支援学級に通う児童生徒の個別指導を担当したり、小集団指導の補助を行っています。また、WICS-5という知的水準や認知特性が測れる検査をとったり、簡易アセスメントツールを用いて児童生徒の発達特性などの見立てを行い、指導や支援方針を検討しています。
その他、発達支援とは別になりますが、児童生徒が第3者的な立場の人間に気軽に話せる場として、『子ども相談』の時間も確保しています。
鈴:クラス担任をする先生方や管理職は、基本的には日本からの派遣で2~3年サイクルで入れ替わってしまうため、特別支援に対する理解や指導・支援の質を一定に保つことができないのが現状です。指導・支援を受ける側も、期間限定のドイツ滞在であることがほとんどですので、帰国までの期間を見据えて、比較的短期の支援方針を検討する必要もあります。
帰国後も適切なサポートが得られるよう情報提供がしたくても、移動ギリギリまで移動先(各自治体・国によって制度が異なる)が分からないことも良くありますので、ぶつ切れの支援にならないよう、できる限りの配慮を行っています。
また、狭い日本人コミュニティの中で自身も家族も生活しており、プライベートと仕事の線引きを明確にすることが難しいです。守秘は徹底しているつもりですが、距離の近さに戸惑うこともあります。
鈴:ホ: 共同回答
鈴:やはり、日本語で受けられる特別支援というものはなかなかありませんので、何もなかったところから支援の場ができ、形作っていく一端を担えているというのはとてもやりがいを感じます。療育や特別支援を受けていた子ども達は、そうでない子達と比べると将来的にトラウマやうつといった精神疾患の発症率が低くなる傾向にあります。発達支援の仕事は、長い目で見てメンタルヘルスの不調を防ぐ予防的支援の側面があると思い、やりがいを感じる部分です。
一方で、“通級指導教室”“特別支援学級”という制度・枠組みができたことで、支援を受けるまでのハードルが以前よりも上がり、支援が届きづらくなった層が生まれているのではないかと危惧しています。「少し気になる」「ちょっと困っている」児童生徒も気軽に大人のサポートが得られる場が必要ではないかと最近思っているところです。
鈴:ドイツの心理職についてはあまり知りませんので、無回答とさせていただきます。
→ 参考までにホーネカムプ山本先生の回答に詳細が書かれています。
鈴:母国語で相談に乗ってもらえたり、支援を受けられる場所が現地にあるというのはとても大きいと思います。
インターネットが普及し、オンライン上で相談ができる場も以前と比べると増えましたが、やはり現地事情を知っているからこそできることや、理解できることが多くあると思います。常に需要と供給のバランスがとれていない分野だと思いますので、思い切って現地にとどまり、根を下ろして心理職として働くという選択肢もありではないかと思います。
今回のインタビューには、2名の心理士の先生に多忙な日常にも関わらず、とても真摯にお答えいただき、ありがとうございました。
ドイツでの取得方法、日本で取得しドイツでどのような縁で勤めているのか、そしてドイツで心理士として働く心構えという、これからドイツで心理士として活躍したいと思っている方にとって有益な情報をご提案できたと思います。
今後もドイツで活躍する日本人のインタビューやオンラインイベントを開催していく予定です!