予告もなく突然やってくる故人との別れ。日本に住んでいてもお葬式(通夜・葬儀・告別式)に参列する機会はさほど多くなく、マナーに精通しているという人は少数派ではないでしょうか。ましてや異国の地で参列する場合は、宗教や習慣の違いから戸惑うことが多いはず。今回は、ドイツのお葬式(Beerdigung)についての基礎知識と、参列する時の注意点やマナーを紹介します。
ドイツのお葬式に関する基礎知識
ドイツでも日本と同様、葬儀や埋葬は宗教と深く結びついており、属する宗教・宗派の形式で行うのが基本になっています。そのため、お葬式に参列するにあたっては故人の宗教・宗派を確認することがまず第一にすべきことになります。
ドイツでの主力宗教はキリスト教(約60%)で、宗派別に見ると、数の多い順にカトリック(28.6%)、プロテスタント(25.8%)、正教会(2.2%)となっています。
これが旧東/旧西ドイツ別のデータで見ると、割合は大きく変わります。旧西ではキリスト教系が74%と全国平均より大幅に高いのに対し、旧東では無宗教が68.3%と大勢を占め、信仰状況は大きく異なっていることが分かります。参列する式が旧西ドイツである場合はカトリック/プロテスタント式、旧東ドイツである場合は無宗教葬である可能性が高いと言えるでしょう。
故人の埋葬は「墓地埋葬法」(Bestattungsgesetz)という州法で義務付けられており、配偶者や子供を筆頭とする親族がその義務を負います。在独邦人数がもっとも多いデュッセルドルフ市が属するノルトライン=ヴェストファーレン州を例にとると、死後10日以内に土葬、あるいは遺体の焼却が行われなければならないと定められています(遺灰の埋葬は6週間以内、※1)。
ドイツでの埋葬方法は大きく分けて、遺体を棺に納めて土に埋める土葬と、遺体を燃やして残った骨を埋葬する火葬があります。火葬の方が葬儀自体が安価で、かつ広い墓地面積も不要で経済的であること、また葬い方にも森林葬や海への散骨など多くの選択肢があるため、火葬を選ぶ人の割合は年々増加しています。
上記スタティスタ(Statista)やドイツ連邦埋葬協会(※2)が提供するデータを見ても、全埋葬数の約70〜80%が火葬であり、一方キリスト教の伝統的な埋葬方法である土葬は20〜30%程度とされています。教会で執り行われる葬儀も全国的には右肩下がりですが、キリスト教文化が根強い地域では土葬が多い傾向が見られます。
参列するときの注意点とマナー
ドイツのお葬式に通夜はなく、葬儀・告別式が死後1週間〜1ヶ月程度で行われるのが一般的です。訃報を受け取ったらまずはお悔やみの気持ちを伝え、葬儀・告別式の連絡があれば出欠を連絡しましょう。式の案内は書面で届くこともありますが、最近はメールやSMSなどデジタルが多いようです。
ここからは、教会や葬儀場で行われる葬儀・告別式(墓地への埋葬の場合)での注意点とマナーを紹介します。当日は、葬儀→告別式→お茶会・食事会、の流れで行われます。時間的都合ですべて参加することが難しい場合は葬儀のみ、葬儀と告別式のみ、といった部分的な参加でも問題なく、日本と比べると柔軟と言えます。
服装
ドイツのお葬式には、日本ほど厳しいドレスコードはありません。黒・紺・グレーなど暗い色味の服を着ていれば喪服である必要はなく、中にはTシャツ・ジーンズのようなラフな格好で参列する人もいます。日本同様、光る素材やアクセサリーを身に付けるのは控えておいた方が無難です。また、動物愛護大国ドイツでのお葬式では特に、動物の毛皮を使った服は避けましょう。
参列者が多いと特に告別式に時間がかかり、長時間屋外に立ちっぱなしで待つことになりますので、真冬の参列の場合は防寒をしっかりして行くことをおすすめします。
お悔やみの言葉
葬儀会場で最初に遺族に会ったら、短くお悔やみの言葉(Beileidsbekundung)を述べます。握手やハグで遺族の悲しみに寄り添う気持ちを示しましょう。
【一例】
・“Herzliches Beileid”, “Mein herzliches Beileid”(お悔やみ申し上げます)
・“Es tut mir sehr leid”(とても残念に思います)
・“Ich fühle mit Dir”(あなたと同じ気持ちです)
・“Ich traue mit Dir”(あなたと悲しみを共有します)
葬儀
キリスト教式の場合は故人が所属する教会、無宗教の場合は葬儀場で執り行われます。教会の場合は、聖歌・賛美歌の斉唱や聖書の朗読、聖職者による故人の生涯の振り返りなどで進行します。キリスト教徒でないと教会での振る舞いが不安かもしれませんが、起立・着席などを周りの参列者に合わせておけば問題ありません。聖歌・賛美歌の歌詞は教会に入るときに配られることがほとんどです。ホスティア(聖餐式)は信徒でない人は受けられないので、周りの人が立って前に進んでいても席に留まっているよう注意してください。
葬儀場の場合は教会ほど決まったフォーマットはなくシンプルで、故人の略歴や人柄の紹介に加え、家族や親しい友人がメッセージを贈るなど、よりアットホームな雰囲気です。式典の時間も、教会よりも葬儀場の方が短い傾向があります。
告別式
葬儀が終わると故人の後に続いて参列者全員で墓地に移動し、埋葬します。墓穴の中に土葬の場合は棺が、火葬の場合は骨壷が置かれ、参列者が順番にシャベルでひとすくいの土をかけ、花を手向けます(キリスト教式の場合は聖水を撒く場合も)。このとき、持参した花を投げ入れることもできます。土壌への影響を配慮し、投げ入れるのは花のみか、ラッピングを含む場合は自然に還る素材の物を選びましょう。
お茶会・食事会
葬儀・告別式の時間にもよりますが、その後参列者が一緒にお茶・コーヒーを飲んだり、食事をする場が設けられることが一般的です。日本の通夜のように悲しみに暮れる場というよりは、故人との思い出を共有しながら楽しく会話する会、といった趣です。教会の一室を借りる場合もありますし、近隣のカフェやレストランに移動して行われる場合もあります。ビールやワインなどお酒を飲む人も少なくありません。
香典(御霊前・御花料)
ドイツに香典文化はありませんが、ご遺族への気持ちとしていくらか包んで渡すことはあります。葬儀費用の足しにしてもらうのはもちろん、式典後のお茶会・食事会に参加する場合は最低限自分の飲食代程度は置いてくるのがスマートな振る舞いと言えます。相場は特にありませんが、一人あたり30〜50ユーロ程度を目安に考えればよいでしょう。
【参考・出典】
※1:ノルトライン=ヴェストファーレン州内政部ホームページ(RECHT. NRW.DE) ”Gesetz über das Friedhofs- und Bestattungswesen (Bestattungsgesetz – BestG NRW)”
※2:ドイツ連邦埋葬協会(Bundesverband Deutscher Bestatter e.V.) ”Bestattungsarten – eine elementare Entscheidung”