ドイツって危険?犯罪発生率から考える治安と日本人が注意すべき犯罪

治安の良しあしはその国に移住・生活するにあたって最も気遣わしい要素とも言えるでしょう。世界の国々の中では比較的安全なイメージのあるドイツ。そのイメージって実際正しいの?それとも本当は危険なの?−−−そう問われたら、「治安面で日本よりは劣るが、他の国に比べたらだいぶ安全ではあるものの、注意すべき点は多い」と答えます。その理由を、政府の犯罪データや調査レポートをベースに解説し、ドイツで日本人が生活する上で注意すべき犯罪行為を紹介します。

▼目次

  1. ドイツの犯罪率
  2. 移民政策と犯罪率の関係
  3. 日本との比較
  4. 世界との比較
  5. 犯罪が多い地域
  6. 犯罪トレンドと日本人が注意すべき犯罪行為
  7. ドイツで犯罪被害に遭ったらどうする?

ドイツの犯罪率

まずはドイツ犯罪率の概要、および過去の推移を見てみましょう。2021年のドイツ全土における犯罪件数は5,047,860件で、前年比−262,761件、実は過去20年間を振り返ってみても右肩下がりのトレンドになっています(2011年との比較で−942,819件、2001年との比較で−1,316,005件)。全人口あたりの犯罪率は6.07%で、人口は10年前・20年前より増えているにも関わらず、やはり2011年との比較で−1.2%、2001年との比較で−1.6%と大きく減少しています。

ドイツ連邦刑事局(BKA)発行の犯罪統計レポート「 PKS 2015」「 PKS 2021」をもとに著者作成

1.1. 移民政策と犯罪率の関係

欧州難民危機を受け、メルケル首相が大量の難民受け入れを表明した2015年からドイツ国内の外国人数は激増しました。2016年の流入数は100万人を突破し、2021年には過去最高となる118万人がドイツに居を移しています。

ドイツ連邦情報局(Distatis)データバンク “Ausländer: Deutschland, Stichtag, Geschlecht/Altersjahre/Familienstand” をもとに著者作成

「外国からの移民や難民が治安の悪化を招く」という考えは特に右寄りの政治理念を持つドイツ人の間で未だ根強いですが、移民労働者を積極的に受け入れるための移民法成立(2005年)後に犯罪率が悪化したかというとむしろ減少しており、冷静に見ればこの言説は成立しないことが分かります。

それでも一定数のドイツ人にこの考えが根付いてしまっているのは、
①戦後、トルコを中心とする近隣諸国から招いた臨時労働力(Gastarbeiter)がドイツ政府の意に反して定住してしまったこと
②東西ドイツ統合後の経済状況悪化による外国人労働者の失業率の上昇と、その後の難民大量流入によって治安が悪化したこと
③2001年の同時多発テロによりイスラム系住民に対する不安が広がったこと

この3点が影響していると言われています。

1.2. 日本との比較

ドイツの治安がどの程度のレベルなのか、続いて犯罪件数や発生率を日本と比較してみるとイメージが湧きやすいと思います。警視庁が発行した「令和3年の犯罪情勢」によると、日本における2021年の犯罪件数は568,148件で戦後最少を記録しています。

人口千人あたりの犯罪件数は4.53件(犯罪率0.45%)。同年のドイツの人口千人あたりの犯罪件数60.7件(犯罪率6.07%)はそのおよそ13倍なので、両国を比較すると日本の治安の良さが際立っていることが分かります。

1.3. 世界との比較

対して、世界に比較対象を求めてみると、ドイツはかなり安全な部類に入る国であると言えます。法務省が発表する「令和3年版 犯罪白書」によると、2018年のドイツにおける殺人の発生件数および発生率(=10万人あたりの発生件数)は788件/0.9となっており、日本(334件/0.3)に比べると高いものの、近隣のフランス(779件/1.2)や英国(809件/1.2 ※2017年データ)、アメリカ(16,214件/6.0)に比べて低いことが分かります。

また、世界163カ国の国・地域が相対的にどのくらい平和なのかを政治・治安・軍事・人権などの面から多角的にスコアリングした「世界平和度指数(Global Peace Index)2022」によると、ドイツは治安が良い方から数えて16位、平和度は「高い」とされています。平和指数が「非常に高い」15カ国のうち9カ国をEU加盟国が占めておりヨーロッパの安定感が目立ちますが、ドイツはこれらの国々に次ぐ高ランクをマークしており、EUの中では「中の上」の平和度と考えてよさそうです。ちなみに日本のランキングは10位で平和度が「非常に高い」国と評価されています。

つまり、ドイツという国の治安状況を要約するとすれば、「日本よりは多少危険ではあるが、その他EU諸国に比較して安全な部類」と言えるでしょう。

2. 犯罪が多い地域

また、ドイツの諸州によっても犯罪率は異なります。犯罪発生件数と犯罪率は地域によって大きく異なっています。州別で見た場合に、ドイツ全土の犯罪率(6.06%)を大きく上回り10%を超えているのが、ベルリン都市州(13.11%)、ブレーメン州(11.23%)、ハンブルク都市州(10.5%)の3州です。

ドイツ連邦刑事局(BKA)発行の犯罪統計レポート「PKS 2021 Bund – Falltabellen」 をもとに著者作成

特徴的なのは、全国平均を上回っている9州のうち6州(赤字)が旧東ドイツに属していた州であること(ベルリンは東西ドイツ混在)。ベルリンの壁崩壊後も旧東西間の経済格差は解消されておらず、経済状況が治安に影響を与えていることは容易に想像ができます。またこのデータから、人口の多い・少ないは犯罪率と比例しないことが読み取れます。

さらに都市別にドリルダウンして見てみると、犯罪件数としてはベルリンが群を抜いているものの、犯罪率では7.5%(21位)。犯罪率が最も高い都市はザクセン=アンハルト州に属するハレ(ザーレ)で、他上位にエッセンやケルンなどノルトライン=ウェストファーレン州の大都市や中都市が目立ちます。

ドイツ連邦刑事局(BKA)発行の犯罪統計レポート「PKS 2021 Städte – Falltabellen」 をもとに著者作成

3. 犯罪トレンドと日本人が注意すべき犯罪行為

ドイツで2021年に発生した犯罪の傾向を見てみると、窃盗が29.3%(軽微な窃盗16.5%、重窃盗12.8%)で最も多く、続いて詐欺(15.7%)、器物破損(10.9%)が主要な犯罪となっています。犯罪発生件数は下降トレンドの中、反対に増加傾向にあるのが、幼児に対する性的虐待、わいせつ物頒布等罪、人権侵害、不正・汚職、著作権侵害、サイバー犯罪、薬事法違反です。

ドイツ連邦刑事局(BKA)発行の犯罪統計レポート「PKS 2021 – IMK-Bericht」 をもとに著者作成

暴行、窃盗など悪質な犯罪被害を防ぐには、夜道の一人歩きはやはり避けるべきと言えます。ドイツの都市の特徴として、市街地から少し離れると雑木林や山道に通じているようなところも少なくありません。こうした場所では助けを呼びづらく、かつ街路灯も少ないため、日暮れ以降は避けることが吉でしょう。対照的に、大都市の繁華街や飲み屋街などは夜間も賑わいをみせていますが、こうした場所ではスリ、ひったくり、酔っ払いによる暴行などが発生するためやはり注意が必要です。仕事などの関係上、どうしても人通りの少ない夜道などを歩かなくてはいけない場合、防犯ベルや催涙スプレーの持参は有効です。

ドイツの川沿い。日没後は人通りが少ない

日本人の巻き込まれやすい暴行・窃盗

  • 日没後の人通りの少ない夜道における暴行事件
  • 繁華街における酔っ払いの暴行事件
  • ちょっとした隙をついた車上荒らしなど
  • カフェやレストラン等で手荷物を道側に置いておくと知らぬ間にスられている
  • 花火大会、クラブ、シルベスターなど多くの人が集まる場所でのスリ被害

また、このような古典的な犯罪以外に、日本同様にドイツでもサイバー犯罪が増加傾向にあり、特に手口が巧妙化し、ドイツに居住する日本人が被害に遭いやすい傾向にあるため注意しましょう。

例えば、最近横行している犯罪としては、警察やユーロポールを名乗る詐欺行為があげられ、大使館・領事館や自治体警察からも注意喚起がなされています。ターゲットに電話をかけ、個人情報の不正利用を理由に送金を要求する手口のようですが、警察機関が市民に金品を要求することはありえないので、絶対にコールバックしないように気を付けてください。似たように「年金事務所」「外人局」「銀行」などを名乗って架電してくる手法もあり、ドイツでの生活を始めたばかりの日本人の泣き所をついた手口ともいえるでしょう。

日本人の巻き込まれやすいサイバー犯罪

    • 警察などを名乗った詐欺電話により送金させる
    • 年金事務所、携帯会社などを装って振り込みの手紙を送る
    • 出会い系などを通じ卑猥な写真・動画を撮影、それを担保にゆすられる
    • 宝くじに当選しました、等の文句でウイルスの入ったメールをクリックさせる
    • 公衆Wi-Fiなどでのパスワードのハッキング
    • 家の賃貸で存在しない住所に対し頭金を支払わされる

4. ドイツで犯罪被害に遭ったらどうする?

ドイツには日本のように街中に派出所がないので、犯罪に巻き込まれた時にどこに駆け込めばよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。いざ被害者となった時にパニックに陥らないためにも、在独日本大使館が案内している対応を参考に、心構えをしておくことが重要です。

もし被害に遭ってしまったら・・・
①警察(110番)、最寄りの在外公館に連絡する
②最寄りの警察署で「被害届出証明作成依頼書」(Beantragung der Aufnahme eines Polizeiprotokolls)を提出し被害を届け出る
③警察から「被害届受理証明書」(Bescheinigung über die Erstattung einer StrafanzeigeまたはVerification of a criminal complaint)※を発行してもらう
※パスポートの再発給(または「帰国のための渡航書」発給)、保険請求に必要
④クレジットカードの停止手続き、パスポートの再発給手続きなどを行う

【参考資料・出典】




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