日本からドイツへの引っ越しは大変ですが、ドイツ国内における引っ越しもそれに負けず劣らずハードルが高いものと言えます。特に、免許証交付やビザの発行のように、特定の管轄に紐づいているような手続きが進行中の場合、引っ越しをしてしまうことによってプロセスが長期化したり、場合によっては申請のし直しになるといったことも考えられます。
特に、ドイツで転職をおこなう場合、引っ越しを伴うことが多々起こりえますが、その際には「就労ビザの再申請」と並行して手続きを済ませる必要があり、混乱の元となります。今回の記事では、特にドイツ国内で転職をした社会人が引っ越しをするときに犯しがちなミス・注意点を解説していきたいと思います。
手順1:住所が変わることで問題が生じる手続き確認
ドイツの一部お役所手続きには、住民票記載の住所が変更されることで手続きを担当する管轄が変わり、また一からやり直しになったり、手続きが混乱する種類のものが存在します。代表的なところでは、管轄の道路交通局が発行の手続きをおこなう「免許証の交付」や、管轄の外人局が発行手続きをおこなう「ビザの発行・変更」の業務です。
特に、上述の二つの手続きは、申請から交付まで1~2ヶ月を要するため、引っ越し前に余裕をもって終わらせておくか、条件次第では引っ越し(新住所における住所登録)後におこなう必要があります。
ドイツの転職活動は、場合によってはとんとん拍子ですぐに新しい職場が決まり、そのまま引っ越し、という流れになることも少なくありません。
注意ポイント
- 管轄が変わってはいけない類の手続きは、余裕をもって終わらせる
- 状況によって(就労ビザの更新など)は、引っ越し後におこなう
手順2:大家への退去通知
ドイツで家を借りている場合、引っ越しに先立って正式な「退去通知」をおこなう必要があります。一般的なドイツの賃貸契約であれば、退去日の3ヶ月前に書面による退去通知が必要となり、これを満たさないと退去後も家賃を払い続けることにもなりかねません(※退去通知猶予には様々な例外がありますのでご注意ください)。
ここで重要なのが、企業の退職に伴う退職通知猶予は(※2年以上5年以下の勤続年数の場合)1ヶ月であるのに対し、賃貸の退去通知猶予は3ヶ月である点で、仮にとんとん拍子で転職に成功し、再来月からでも会社に来てくれ、と言われてしまった場合、退去通知猶予までに通知が間に合いません。
そうした場合、その空白期間を埋めるためのNachmieter(新しい借家人)を自ら探してくるなどで、家主がその分の家賃を免除してくれる文化がドイツにはあります。こうした個々の取り決めごとは賃貸契約書などに紐づくため、退去時にトラブルにならないためにも前もって賃貸契約を熟読しておく必要があります。
注意ポイント
- 一般的には、退去日の3ヶ月前の第三営業日までに退去通知を行う義務がある
- 書面による退去通知のみが有効である
- 場合によっては新しい借家人を自ら探してくることで早期退去が可能になる
- どうしても見つからない場合、自身で超過分の家賃を負担することもある
手順3:引っ越し先のリサーチ
「手順2」と並行するプロセスとなりますが、新しい転職先が決まり、かつ引っ越しを伴うと判明した時点で、即座に新住居のリサーチをおこなう必要があります。オンラインポータルなどを通じて直接家主や同居人と交渉するパターン、エージェントなどを介する方法がありますが、昨今の移民の増加をうけ、ドイツにおける転居先探しの難易度は高まっています。そのため、転職の労働契約にサインをおこない次第、即座に引っ越し先へのアプローチを始めることをお勧めします。
近場なら平日の午後や土日を利用して家の確認を行うこともできますが、ベルリンからミュンヘンに引っ越す、といったような遠方への引っ越しの場合、こうした気軽な内覧がおこなえません。そうした場合、オンラインで内覧をおこなうか、信頼のおける友人などに依頼することとなるでしょう。
注意ポイント
- 転職先の労働契約書があるとオーナー審査に通りやすくなる
- 基本的には現地を確認のうえ賃貸契約をおこなう
- スケジュール的に難しい場合は、オンラインで部屋の様子を確認、あるいはその土地に住んでいる友人などの力を借りて現状チェック
手順4:有給消化&原状復帰&引っ越し
余った有給休暇は最終日までに使い切る必要があるため、人によっては最後の1~2週間で丸々有給消化し、その時間を住居の片づけや引っ越しの準備にあてます。賃貸契約にもよりますが、基本的にドイツの住宅は原状復帰が基本のため、床や壁に汚れが目立つ場合、部分修復や塗装などをおこないオーナーを満足させる必要があります。
引っ越しに際しては業者を使用する場合もありますが、家具の多さや引っ越し先への距離など、条件次第ではかなり高額化することも考えられます。荷物量が多くなければ、引っ越し用のトラックなどを日借りし、友人などの助けをかりておこなうことも少なくありません。
- 原状復帰が必要な場合、引っ越し準備には余裕をもつこと
- 引っ越しは遠方であれば高額となることから、軽トラックなどを用いた引っ越しも視野に入れる
手順5:引っ越し後の手続き
引っ越しが住んでも気は抜けません。新しい会社での業務が始まる一方、新住所登録にまつわる諸手続きをこなさなくてはいけない、ハードな数日間となります。さしあたり緊急性が高い手続きが「郵便受けへの名前の記載」「郵便局による転送手続き」「住民登録」の3つです。特に転職に伴い、前職の書類であったり、住所変更に伴う重要な書類が郵便で行きかうため、それらを取り逃さないためにもこうした手続きは確実に済ませましょう。
登録場所 | 緊急性 | 目的 | |
郵便ポストへの名前の記載 | 自宅 | 非常に高い | 住所変更や転職にまつわる重要な通知を滞りなく受け取るため |
郵便局による転送手続き | 郵便局(オンライン) | 非常に高い | 前住所に届く重要な手紙を新住所に転送する |
新住所での住民登録 | 最寄り市役所 | 非常に高い | 住民登録に紐づく各所登録のため。同時に市役所にて滞在許可証記載の住所変更もおこなう |
その他住所変更の届け出た必要な手続き | 銀行、携帯プロバイダー、Bahn Card等 | 普通 | 現住所に各通知の届く機関への住所の通知 |
在留届の住所変更 | 領事館(オンライン) | 普通 | 旅券法第16条に基づく |
特に、前職のArbeitszeugnisse(労働証明書)のように、転職後も一生必要となる書類も、引っ越し後の混乱に紛れて紛失してしまうケースがあります。慎重を期する場合、前時代的ではありますが、郵送ではなく前の職場を訪れて原本を手渡ししてもらっても良いかも知れません。