SCフライブルク・レディース アスレティック・トレーナー 重村優輝さんインタビュー(こぼれ話)

SCフライブルク・レディースチームでアスレティック・トレーナーとして活躍する重村優輝さんをインタビュー。NIPPONip本誌72号に掲載しきれなかった貴重なお話を、オンラインで余さずお届けいたします。

プロフィール

(c)SC Freiburg Frauen

重村 優輝(しげむら ゆうき)さん

小学校から18歳までサッカーに励み、高校卒業後は、コーチを目指して、東京スポーツ・レクリエーション専門学校アスレティックトレーナー科へ。解剖学など人間の体について学ぶうちにトレーナー志望となり、さらに東京メディカル・スポーツ専門学校鍼灸師科を卒業。日本で働きながら、語学などの準備期間を経て、2016年に渡独。2018年より、ドイツ・ブンデスリーガのSCフライブルク・レディースに所属。現在アスレティックトレーナーとして活躍している。

2007〜2010 アール鍼灸整骨院(テコンドー日本代表サポート)
2010〜2016 東京メディカル・スポーツ専門学校附属鍼灸院
2010〜2016 関東学院大学サッカー部
2011•2012 FIFA Club World Cup FIFA レフリーチーム
2018〜 SCフライブルク・レディース
Instagramアカウント

サッカー経験者の重村さんは、ボールを蹴れる貴重な存在。練習前後に、選手とボールの蹴り合いをすることも(c)SC Freiburg Frauen

18歳までサッカーに励み、トレーナーを目指し、専門学校に進まれましたが、卒業する際、いくつかお仕事のオファーがあったそうですね。

重村(以下、重) : はい。Jリーグのチームで働けるチャンスがあったのですが、治療経験を優先的に積みたいと考え、オファーのあった専学校附属鍼灸院に就職しました。さらに、関東学院大学サッカー部のトレーナーや専門学校で鍼灸師科の授業も担当。授業ではサッカーや柔道、陸上、ラグビーなどの大会でトレーナー志望の学生の現場研修し、競技特性によって起きやすい傷害とその対処方法を実践的に学ばせました。

日本で仕事経験を積みながら、渡独のため、ドイツ語も学ばれたそうですが、語学学校に通ったのでしょうか?

重 : 日本では語学学校には通わず、文法はドイツ帰りの知人に教わりました。コミュニケーションは、独学でCD付きのドイツ語教材でオーバーラッピングとディクテーション(聞いたドイツ語をそのまま書きとる)を徹底的に行い、オンラインで実際にドイツ語を話す機会を設けました。

そして満を持してドイツへ。まずは語学学校に通われたのですか。

重 : 誰も自分の事を知らない場所で、自分が日本で培ってきたものが、どれだけ通用するのかを試す為に渡独しました。まずはドイツ語学校に通いながら、Praktikum制度を利用してブンデスリーグ1部のチームでの研修や日本代表の車椅子バスケ選手のサポートなど幅広く様々な経験を積みました。

それで見事自分の力で、SCフライブルクの仕事を掴み取ったんですね!面接で重要だったポイントはありますか?

重 : 面接では、これまでの実績やストロングポイントなどをドイツ語で精一杯アピールしました。面接終了後、監督が「これだけ喋れれば問題ない。」とおっしゃったので、経験や技術はもちろん、主にドイツ語力が問われていたのだと感じました。

異国の地でコミュニケーションを取れるというのは大事ですよね。

重 : 日本では黙々と仕事に取り組む姿勢が美学とされる文化的側面があると思うのですが、ドイツでの仕事はコミュニケーションありきで進みます。喋る事でお互いを理解し信頼関係を築き仕事を進める上でコミュニケーションはとても重要だと思います。

昨シーズン、Pokal Finaleに勝ち残ったときの集合ショット。強豪ヴォルフスブルク相手に接戦に持ち込んだ。(c)SC Freiburg Frauen

SCフライブルクに入って、今年で6シーズン目。現在のアスレティック・トレーナーとしての仕事内容を教えてもらえますか。

重 : 今はセラピストの仕事に加え、アスレティック•トレーナー(日本でいうフィジカルコーチ)の役割を担っています。スポーツ傷害の予防とフィジカル強化が役割です。試合翌日は、疲労回復の為のリカバリープログラムを作成。ジムでの筋トレでは、サッカーの競技特性を考慮したフィジカル強化メニューを提供しています。ピッチ上では、ウォーミングアップやスプリントトレーニングを実施しています。サッカーでは短い距離で最大速度に到達する爆発的な瞬発力が求められるので、スプリントトレーニングでは短い距離で最大速度に到達する事をテーマに取り組んでいます。試合前日は、感覚器を通した脳の情報処理能力や方向転換能力へ刺激を与えて、動きにキレを出すアジリティメニューを実施しています。

アスレティック・トレーナーは重村さんお1人ですか?

重 : 1人です。私が所属しているアスレティック・メディカル部門には、私と2人のドイツ人理学療法士の合計3人が在籍しています。それぞれ、20年近くのキャリアを持ち、年が近いメンバーなので協力しながらアスレティックもメディカルも高いレベルを選手に提供できていると思います。

アスレティック・トレーナーとして、重村さんが強みとしているのは?

重 : 傷害予防をベースとしてサッカーに対する理解度を武器にトレーニングメニューを組み立てられる事です。またケガが起きた時、ドイツ人理学療法士の視点だけでは解決に至らない時もあります。そんな時に、日本人治療家としての視点を持って問題解決に導けるところも武器だと思います。

現在、チームに日本人選手はいないそうですが、ドイツ人選手に対する接し方で気をつけていることは?

重 : 何を言いたいのか理解できないのがストレスになるようなので、自分が考えている事をはっきり伝える様に心がけています。距離感が日本人よりドイツ人の方が近い印象なので、肩肘を張らずにありのままの自分で接する事を心がけています。

働き方も、日本とドイツで違いはありますか?

重 : ドイツは休みがしっかり取れるのがいいですね。3月に息子が生まれたんですよ(取材は5月)。年が明けて5月までの私のアウェー帯同と出産予定日の1週間前からトレーニング参加が強制的に中止になりました。出産後さらに1週間休みをもらえて、その後出勤すると、『仕事に来ていいの?早く帰りなさい。奥さんと息子には、あなたが必要なの。』と選手を始め、チームの女子達からたくさんの説教を頂きました(笑)。

青色の円盤をあげたら右にスプリントをかける(全力疾走する)、黄色の円盤なら逆へと、動作の方向づけをするトレーニングを行う(c)SC Freiburg Frauen

ドイツでの、スタッフ同士のやり取りはどうですか?

重 : 難しいこともあります。ドイツは個人に重きを置く文化なので基本的には、個人個人がやりたいことをやりたいようにやる性質があります。集団を重んじて空気を読みながら自分の行動基準を導き出す日本人とは真逆の性質を持っています。ドイツ人の感覚だけの働き方では、どうしても粗が出てしまいます。その点、私が日本での社会人経験を活かして潤滑油となりながら、日本人とドイツ人のお互いの性質を補完するようにチームで働いています。日本人としての強みを活かしながらドイツの文化に溶け込み個性を出すというのを意識しています。

ドイツで生活をしていてよかったこと、逆に困ったことは?

重 : 子育てしやすい点が良いと思います。Kindergeld(児童手当)の受給やHebamme(助産師)による出産後の自宅訪問サポートなどが全て保険で賄われるというのは、すごいシステムだと思います。ちなみに、うちのチームの選手が最近出産して、監督は妊娠中です。妊娠中も出産後の子育て期間もドイツではお給料が貰えるシステムになっています。社会全体が出産・子育てに理解があると感じます。困ったことは、その分、税金が高いとかですかね(笑)。

ドイツでサッカーのトレーナーになるにあたって、取らなければならない資格はありますか?

重 : アスレティックトレーナー(日本のフィジカルコーチ)として働く為の業務独占資格はありません。アスレティック・トレーナーの知識を得る為の教育団体がいくつかあるのですが、その団体のFortbildung(継続教育、研修)、Weiterbildung(継続教育)を受けだり、大学のスポーツ科学部を卒業してアスレティックトレーナーとして活動している人達が多いです。

重村さんのように日本人で、ドイツのサッカー業界で働いている方はいらっしゃいますか?

重 :Eintracht FrankfurtやSGS Essen, RB Leipzigで日本人が働いています。ブンデスリーグで働く日本人同士のつながりも強化して今後に繋げる事も今後の課題ですね。


長年の経験に裏打ちされた確かな技術と自信を武器に、ドイツという異国のサッカーチームで、確固たる地位を築いた重村さん。しかし、それにあぐらをかくことなく、監督や選手の要望を察知しきめ細やかな動きで対応するなど、常にチームを支える姿勢が素敵だなと感じました。

*全ての画像はSC Freiburg Frauenから、重村さん提供



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