日本に本帰国しても受け取れる?ドイツ年金の仕組みと受給手続きを解説

ドイツは、世界で最初に民間人向けの強制加入型年金制度を作った国(ドイツ帝国時代のビスマルクによる年金保険法・1889年)と言われており、現在でも社会保障先進国のひとつに数えられています。ドイツの年金(Rentenversicherung)の財源は保険料による賦課方式で、給付年齢や保険料率など、制度的に日本とは多くの共通点があります。少子高齢化による財源悪化などの問題に直面している点でも状況が似通っています。今回のコラムでは、そんなドイツの年金の仕組みと、日本人がドイツで働いて年金保険料を納めた場合の扱いや受給手続きについて解説します。

※ドイツの年金にも日本同様、老齢給付/障害給付/遺族給付がありますが、ここでは高齢者層に支給される老齢給付を対象にしています。

1. ドイツの年金の仕組みを知ろう

ドイツの公的年金制度(gesetzliche Rentenversicherung)は、日本と同様、税収を財源とせず保険者が負担する保険料で成り立っている社会保険方式です。自分が納めた保険料を老後に受け取る積立式ではなく、現役世代が年金世代を支えるシステムで、世界の大多数の国が公的年金制度にドイツや日本と同じ社会保険方式を採用しています。

◉日独の公的年金制度比較(2023年1月現在)

ドイツ 日本
年金体系 ・一般年金保険

・鉱山労働者年金保険

・一部の自営業者年金

・国民年金(基礎年金)

・厚生年金保険

被保険者 居住している被用者は原則加入(医師、弁護士等の一部の自営業者も加入)

(注)無業者・自営業者は適用対象外

全居住者
保険料率

(一般被用者の場合)

18.6%(労使折半) 厚生年金保険:18.3%(労使折半)

国民年金:月額16,590円(定額)

支給開始年齢 65歳11ヶ月

(注)2029年までに67歳に引き上げ予定

厚生年金:男性64歳、女性62歳

(注)男性は2025年度までに、女性は2030年度までに65歳に引き上げ予定

国民年金(基礎年金):65歳

最低加入期間 5年 10年(2017年8月〜)
財政方式 賦課方式 賦課方式

厚生労働省「主要国の年金制度の国際比較(日本・アメリカ・英国・ドイツ・フランス・スウェーデン)」(PDF)を元に著者作成

日本との最大の違いは、国民皆年金ではなく、主婦・学生などの無業者・自営業者(一部を除く)・高額所得者は年金の適用対象外であること。ただし、対象外であっても希望すれば一般年金保険に任意加入することができます。

また、日本のように基礎年金+厚生年金の2階建ての制度ではなく、被用者(サラリーマン・パート労働者・公務員)向け、一部の自営業者(医師・弁護士・農業経営者など)向けともに横並びの1階建て制度になっています。

1-1. 公的年金以外の年金

(1)企業年金(betriebliche Altersvorsorge, Betriebsrente)

被雇用者である場合、一般年金保険に加えて企業年金に加入するのが一般的で、制度や積立方式は企業により異なります。企業年金には公的助成があり、所得控除が受けられるのがメリットです。

一般的に大企業では、引当金方式(Pensionszusage)という内部留保型の自社年金制度が普及しています(2002年推計で全体の59%)。中小企業では、企業と保険会社が契約する直接保険方式(Direktversicherung)が一般的で(2002年推計で全体の13%)、リースター年金(詳細後述)として販売されている商品を企業年金に採用することも可能です。

(2)個人年金・私的年金(private Altersvorsorge)

被保険者と保険会社・銀行とが直接契約する年金商品で、リースター年金やリュールップ年金は国からの優遇措置を受けられます。契約内容は商品により異なりますが、契約手数料を取られることに加え、保険料の払い込み総額と支給額を比較すると払い損となるものもあるので注意が必要です。

①リースター年金(Riester-Rente)

2001年の年金改革で導入されたリースター年金は、国が認定した保険会社の年金保険や銀行の投資信託などを対象とし、補助金や所得控除が受けられる拠出建ての私的年金制度です。

−加入対象者:一般労働者・社会保険料納付自営業者・主婦など(公務員・社会保険料未納者は対象外)
−掛金:前年年収の4%、上限年間2100ユーロ
−受給形態:62歳以降、受給は年金型・貯蓄型など商品によって異なる
−メリット:国からの直接的な補助金(年間最低175ユーロ〜、補助金は課税対象であることに注意)、あるいは保険料の所得控除のいずれか有利な方を利用することができる
−デメリット:EU外に移住した場合は補助金・所得控除が取り消される

②リュールップ年金(Rürup-Rente)

リースター年金の対象外となった層を対象にした、保険料の大部分を所得控除できる税制優遇付きの私的年金(2012年から控除上限74%に)。国が認定した保険会社の年金保険を対象商品とし、2005年から導入されました。

−加入対象者:おもに自営業者(リースター年金の対象外層)
−受給形態:60歳以降に毎月受け取り
−メリット:保険料の所得控除(公的年金と合わせて独身者で年間2万ユーロ、夫婦で年間4万ユーロまで)
−デメリット:途中解約・払い戻し不可、年金の一括受給不可

③その他の個人年金

2. 日本との年金協定と年金の受け取り方

ドイツと日本の間には1998年(※)から年金協定(Sozialversicherungsabkommen)が結ばれており、両国での年金払い込み期間が合算できます。駐在などで一時的にドイツで就労したのち日本に帰国する場合や、日本で一定期間年金を納めたのちドイツで再就労・年金加入する場合などに有利です。
※施行は2000年1月1日

この協定により、ドイツでの就労が5年以下の一時派遣である場合、日本での年金加入を継続・ドイツ年金への加入義務が免除されることが例外として認められています。また、それぞれの国の最低加入期間を超えて年金を納めた場合は、両方の国から年金を受け取ることができます。以下に2つのパターンを紹介します。

2-1. ドイツの年金を日本で受け取る

ドイツ年金制度の加入期間が5年以上ある日本人は、給付を受けることができます。さらに、日本帰国後も将来的な年金額の増額を目的に、ドイツ年金制度への加入を任意継続することも可能です。任意加入の申請は基本的にドイツの年金担当窓口で行いますが、日本年金機構の窓口経由で行うこともできます。

受給方法は以下のいずれかになります。
①日本円による、日本国内銀行口座への振込み
②ユーロによる、ドイツ国内銀行口座への振込み
③ユーロ、米ドルまたは日本円の小切手による、日本の住所への郵送

①の場合は海外送金手数料、②の場合はドイツ国内銀行の口座維持手数料(銀行による)、③の場合は郵送料がかかり、年金支給額が実質マイナスになる可能性があります。

ドイツで納めた年金保険料は一定条件を満たせば還付を受けることができますが、労使折半で雇用主が納めた分(50%)は戻ってこないので積立分が減ること、還付を受けられるのはドイツ出国後に申請を行ってから2年後であることに注意してください。

2-2. 日本の年金をドイツで受け取る

日本年金機構は、海外在住者への給付にも対応しています。年金の支給は規定年齢に達したら自動的に行われるものではなく、給付を受けるにあたって必要書類を添付した「年金請求書」を提出する必要があります。

【受給の手続き】
①年金請求書の入手と必要書類の準備
・「年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)」に記入
・必要書類を添付(戸籍謄本など生年月日証明書類、本人名義の預金通帳・キャッシュカードなど受取先金融機関の口座証明、他)

②年金請求書の提出
・提出時期:老齢年金の受給開始年齢に到達した日(誕生日の前日)以降
・提出先:日本における最終住所地を管轄する年金事務所または街角の年金相談センター

まとめ

ドイツに居住し年金を納めている人には、日本企業の駐在、現地で就職、国際結婚してドイツ在住、などさまざまなパターンがあります。加入期間が5年以上で受給資格を持ち、将来的に日本に帰国する予定がある場合は、日本での受給方法を考えておくこと、ドイツの銀行口座を残しておくかどうか(銀行は毎月の給与振込みがなくても口座維持手数料がかからない銀行を選ぶ)など、先を見越して計画しておくとのちのち慌てずに済みます。

ドイツに永住する場合でも、日本で10年以上年金を納めていれば日本の年金の受給資格がありますので、請求を忘れずに行いましょう。将来の経済的不安を少しでも解消するために、ライフプランを踏まえた年金の受け取り計画を立てておくことをおすすめします。

【参考・出典】
・厚生労働省「海外の年金制度」 、「 ドイツにおける企業年金について」(PDF), 2006.11、「 2020年海外情勢報告 第3節 ドイツ連邦共和国」(PDF), 2020
・日本年金機構「主要各国の年金制度の概要」 、「 協定相手国別の注意事項(ドイツ)」、「 海外にお住まいの方の年金の請求
・ニッセイ基礎研 REPORT「 私的年金が強化されるドイツ年金制度」(PDF), 2006.12
・RIESTER-RENTE.net “ Was ist die Riester-Rente?
・Deutsche Rentenversicherung “ Rürup-Rente”、“ Arbeiten in Deutschland und in Japan”、
・ドイツ連邦共和国大使館・総領事館「ドイツの年金手続き
・在ドイツ日本国大使館「 在留邦人の方の日独年金加入について




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