2024年7月、日銀は長年の沈黙を破ってついに利上げに踏み切り、一時的に円は対ユーロで15円の上昇を見せました。在独日本人の中には、青天井で加速する円安に歯止めがかかり、一安心された方も少なくない事でしょう。
もっとも、コロナ前の1€120円という水準にはまだほど遠く、慢性的な円安は続いています。
円安ユーロ高はなぜ引き起った?
現在の円安の原因はいくつかの要因が複合したものとなっており、単純に一つの理由に答えを求めることが難しいとされています。一般的には、現在の異常なまでに円安は欧米と日本の金利差の有むキャリートレードに起因すると言われており、このことから日銀による利上げ、あるいはECBやFRBによる利下げが、ひいてはその政策に影響を及ぼす政党や為政者の決定が一つのカギとされています。
※キャリートレードとは、低金利で通貨を調達し、高金利の別の通貨での運用をおこなうこと。例えば、日本の政策金利は欧州やアメリカの政策金利と比べて異常に、安いことから円を調達しドルやユーロに変える動きが発生し、円の安売りに繋がった。
というわけで、現在の円安を改善したければ日銀が利上げにかじ取りをおこなう必要がありますが、ことは容易ではありません。利上げは消費意欲の後退の危険性を孕むので、慢性的に低迷している個人消費に苦しむ日本経済がここで利上げをおこなってしまうと、車や住宅など経済を下支えする消費が一気に冷え込み、取り返しのつかない不景気におちいるのではと懸念があるのです。
実際に、2024年8月には日経平均株価がブラックマンデーを越える急落を見せました。また、今まで円安の恩恵を受けていた輸出産業へのダメージも懸念されます。
利上げのできない日本に対し、欧州中央銀行およびFRB(連邦準備制度)はコロナ禍以降発生した記録的なインフレによって、利下げのできないジレンマを抱えていました。インフレは景気の過熱局面で、生活費が高騰し国民の暮らしを圧迫するため、政府は利上げをおこなって物価高騰を抑制することがカギになります。
コロナ以前は1~2%で推移していた欧州のインフレ指標は、コロナとロシアのウクライナ侵攻によって一気に過熱し、2022年の秋には10%近いインフレ率を記録しました。2024年以降徐々にインフレ率はコロナ以前の水準に戻り始めたことから、欧州中央銀行は6月にはコロナ以降初となる利下げを決定します。
このように、ここ2~3年の間に引き起こされた円安ユーロ高は基本的には日欧の金利の差の招いたキャリートレードが一つの要因であるとされており、これが解消されるとともに円安も是正されるのではと市場は期待しています。
円安ユーロ高は短期的?長期的?
さて、そういうわけで金利差が解消されれば円安ユーロ高の解消に繋がるのではという声があがっていますが、為替は複雑な要因が絡み合ったものなので、これだけで予測は立てられません。
金利差の解消は一時的な円安解消には繋がるものの、長期的には円安トレンドは持続するのでは、という専門家の予測がなされています。
理由はいくつかありますが、国債の肥大化、金利差以外の大きな円売りの要因として長期的な人口減少による日本経済の減退、そしてデジタル赤字や慢性的な貿易赤字体質などが挙げられています。
DX化、イノベーション、組織の若返りなど様々な企業努力が官民一体としてなされている状況ですが、G7の中でもドイツやアメリカといった経済大国の後塵を拝している状況が続いています。そのため、長期的には円の価値は下落し続けるだろうという予想がなされることがあります。
ユーロ高の恩恵は日本の輸出産業と海外移住者へ
もっとも、こうした日本の経済にとって危機的状況をチャンスに変える産業が存在しています。それが、ヨーロッパ市場を相手にする在独日系企業で、特に製造業は大きなプレゼンスを示しています。
事実、コロナ禍からロシアのウクライナ侵攻と続くここ数年の動乱の中、ヨーロッパに拠点を置く日系企業は着実に売り上げを伸ばし、成長市場であるEUの恩恵を多く得ています。
こうした流れに乗じ、日本企業のヨーロッパでのプレゼンスの向上に寄与しているのが「現地採用」と呼ばれる日本人で、日本ではなく直接ドイツの日系企業に就職活動をおこない、円ではなくユーロで給与を得ることでアドバンテージを得ています。
ドイツにはこうした日系企業専門の人材紹介会社も多く存在しており、こうしたエージェントを介しての就職活動は年々人気を博しています。
記事執筆は2024年9月