人生でもっともおめでたい行事と言っても過言ではない結婚式。日本では長引く不況の影響で結婚式ばなれが進んでいるとはいえ、自分が主役になれるそうそうない機会に、気合を入れて企画するカップルも少なくないでしょう。
ドイツでももちろん、結婚式は人生の一大イベント。みなそれぞれ趣向を凝らして理想の結婚式を実現しています。ドイツの結婚式は日本に比べると宗教的色合いが強く、習慣の違いや宗教施設内(おもに教会)で気を付けるべき点がいくつかあります。今回は、ドイツの結婚式にゲストとして招待された場合の心構えとふるまいについて紹介します。
1. ドイツの挙式システム
ドイツでの挙式には、
- 役場式(standesamtliche Hochzeit)
- 教会式(kirchliche Hochzeit)
の2つのスタイルがあります。カップルの宗教や信条によってどちらを選ぶかを決めますが、教会式はカップルのどちらかが教会員(洗礼を受け、教会税を納めている)でないとできません。自然、他の宗教を信仰、あるいは無宗教のカップルは役場式を選ぶことになります。以前は教会式を望むカップルも事前に公的な婚姻手続きを含む役場式が必須とされていましたが、2009年以降は教会のみでの挙式が認められるようになりました(法的な婚姻関係を結ぶには役場での手続きが必要)。
世界最大級の統計プラットフォームStatistaによると、役場式での挙式は94%、教会式は16%、フリースタイル・他宗教での挙式は9%とされています(2021年、※1)。
伝統的にはドイツはキリスト教の国であり、信徒は所属する教会で式を挙げることが一般的ですが、近年はドイツ全土で40%近くが無宗教、あるいはキリスト教系以外の宗教を信仰している状況で、宗教色の薄い旧東ドイツ圏ではこれが76%にも上ります(2018年、※2)。教会員のみが可能な教会での挙式数の減少は、至極当然と言えるでしょう。
役場式は日本にはないスタイルなので馴染みがないですが、戸籍局(Standesamt)の担当者が取り仕切って婚姻契約を行うものです。結婚の誓いや婚姻届けへのサインをし、婚姻証明書が交付されると、夫婦として正式に戸籍に登録されます。通常は役場の一室で行われるので華やかさはありませんが、数は限られるものの親族や友人を招待することも可能で、多くのカップルはその後別会場で結婚パーティーを催します。
2. 挙式・パーティーの流れと注意点
ではドイツの結婚式のおおまかな流れを見てみましょう。挙式プロセスは、役場式・教会式(プロテスタント・カトリック)の場合ともに一般的に含まれる内容を挙げています。
事前に
- 招待を受ける
- 出欠の連絡
- プレゼントや衣装の準備
- 会場までのアクセスの確認
当日(時間は目安)
- 挙式(形式によって異なる)
【役場式】(20~30分)
個人情報の確認~開始スピーチ~結婚の意思確認~指輪交換~式の内容読み上げ~婚姻証明書への署名
【教会式:プロテスタント】(45~60分)
ゲスト着席~新郎新婦入場~挨拶・聖書の朗読~讃美歌斉唱~説教~誓いの言葉・指輪交換~主の祈り~讃美歌斉唱~結びの言葉~退場
【教会式:カトリック】(45~60分)
ゲスト着席~新郎新婦入場~挨拶・礼拝~讃美歌斉唱~説教~誓いの言葉・指輪交換~讃美歌斉唱~祈り(Fürbitten)~聖餐式~結びの言葉~退場
- パーティー会場に移動
- コーヒー&ケーキ休憩、歓談、写真撮影など(~2時間)
- ディナー(~2時間)
- ゲストも参加してのイベント(~1時間)
- ファーストダンス(30分)
- ダンス、歓談などをそれぞれ楽しむ(~2時間)
教会での挙式に出席する場合、信徒が神に祈りを捧げる神聖な場であることを心得、尊重する気持ちを持つことを忘れないようにしましょう。教会内でのふるまいで気を付けるべきことのひとつは、祈りに使われる場所や物を汚さないことです。礼拝の席の足元には祈りを捧げる際に膝をつく場所が設置されていますが、ここに足を掛けてはいけません。
また、置いてある聖書を手に取る場合は、汚したり破ったりしないよう大切に扱います。
気を付けるべきこと2つめは、信徒のみ参加が許される行事を知っておくことです。おもにカトリック式の終盤に行われる聖餐式、これはキリストの最後の晩餐を慮り、キリストの体(パン)と血(ワイン)を象徴的に受け取る行為とされています。従って、信徒以外はこれを受けることはできません。周りのゲストが席を立って前に進み出ていても、自分の席に止まって待ちましょう。
教会でのふるまいは、基本的には周りのゲストに合わせていれば大丈夫です。讃美歌は、知っていれば一緒に歌ってもいいですし、知らない場合は聞いているだけでも問題ありません。
3. ドイツの結婚式に「ない」3つのもの
ドイツの結婚式には、日本で当たり前とされている3つのものがありません。日本よりも式典色が少なく、よりカジュアルに新郎新婦を祝えるのがドイツの結婚式と言えるかもしれません。
(1)ご祝儀がない
ドイツの結婚式にはご祝儀の習慣がありません。といってもゲストは手ぶらで参加して良い訳ではなく、新郎新婦が好きな物や希望した物を贈るのが一般的です。しかし近年は嗜好が多様化し、特に都市部では居住面積も限られるため必要でないものはたとえプレゼントでも受け取りたくない、と考える人も多く、ウィッシュリストの中からお祝いを選んでもらうスタイルが増えています。
また、物ではなく現金で新婚旅行や新居のサポートを希望するカップルも珍しくありません。その点は日本のご祝儀に似ていますが、日本のように新郎新婦との関係性によって一般常識的な金額が決まっているわけではなく、いくら包むかは贈る側に任されています。
ラジオ局アンテナ・バイエルンの記事(※1)によると、金額は個人の経済状況や主役との関係性、式の規模など様々な要因に依るものの、学生であれば30~50ユーロ、社会人であれば30~100ユーロ程度とされています。自分の飲食代が賄える程度を贈るのがベースの考え方ですが、適正な金額選択はドイツ人にとっても悩ましい問題のようです。
(2)厳格な服装マナーがない
ドイツの結婚式は日本に比べると堅苦しさが少なく、さほど厳しい服装マナーもありません。レストランウェディングだと、稀にではありますがシャツにジーンズで参加する人も見かけるほどです。もちろんTPOには考慮すべきですが、高級ホテルでのウェディングでもないかぎり、オフィスカジュアル程度の服装で参加していれば浮くことはないでしょう。
服装関連で言うと主役のお色直しもなく、新婦のウェディングドレスや新郎のタキシードは挙式・パーティーを通して同じものを着用します。
(3)式の時間制限がない
挙式・披露宴で3時間~3時間30分程度、その後二次会に場所を移して・・・というのが一般的な日本。ドイツの場合は披露宴と二次会の間に区別がなく、教会や人前式での挙式後に行われるパーティーに終わりの時間が設定されていません。そのため、ゲストは頃合いを見計らってお暇の挨拶をして帰ることになりますが、中には夜通し新郎新婦と飲み明かす人も。
新郎新婦と深い友人関係でなく長時間の滞在が厳しい場合は、ディナーと主たるイベントのあと帰宅を申し出ても嫌な顔をされることはありません。
では、逆に全ゲストが注目しなければいけないパーティー最大のイベントは何かと言うと、新郎新婦が披露するファーストダンスです。多くのカップルは、この日のお披露目のためにダンス教室に通って特訓をしてきます。そんな二人の努力を労うと共に新たな門出を祝する意味で、ファーストダンスは見逃さないようにしましょう。
ドイツに限らず、ヨーロッパの結婚式に出席すると、ダンスがとても身近なものであることを体感します。厳かな雰囲気のファーストダンスが終わると生バンドやDJが登場し、会場は一気にダンスフロアへと変貌します。その中で新郎新婦とゲストが朝まで踊り明かす、というのがドイツの結婚式でよく見る光景です。
【出典・参考】
※1:statista, “Wie haben Sie sich trauen lassen?” (2021), 2022年5月17日公開
※2:bpb(連邦政治教育センター), kurz&knapp, “Religion”, 2020年8月10日公開
Die Bundesresigerung, “Hirat”, 2020年2月公開
antenne bayern “So viel Geld schenkt man zur Hochzeit!”, 2022年5月6日公開