ドイツ人って親日?反日?仕事環境に影響する複雑な対日感情

日本人の我々の感覚では、他国が日本や日本人のことをどう思っているのかはやはり気になるところではないでしょうか。個人レベルだけではなく、日本のメディアもしかり、近隣諸国の対日感情は度々取り上げるテーマです。
さて、自動車産業や戦後の発展など、なにかと「似た国」として括られることの多いドイツと日本ですが、当のドイツ人は果たして日本人のことをどのように思っているのでしょうか?今回のコラムで、ドイツ人の抱く対日感情の実態を紹介します。

ドイツって日本が好き?嫌い?日独関係の歴史

ドイツ人は日本が好きか嫌いか?このテーマはメディアなどでもよく取り上げられることがありますが、日独の持つお互いへのイメージは、個々人ベースであることと、その時期の政権や国際情勢にも影響を受けるため、一概に「好き」「嫌い」の二元論で語ることができません。

ドイツのヴィルヘルム2世によって喧伝された「黄禍論」(※写真はpublic domain)

明治維新の開国と1861年の日普修好通商条約以降、日独両国はこんにちに至るまで160年以上の国交関係を持ちますが、大日本帝国がドイツをお手本に富国強兵をすすめた反面、三国干渉や第一次世界大戦を通じて政治的に敵対する場面も多く、日独伊三国同盟の時期も含め、戦前の日独関係はとても不安定であったと言えるでしょう。

日独伊三国同盟(※写真はpublic domain)

戦後は、西ドイツと日本が同じ西側陣営としてアメリカの復興プランに組み込まれたこともあり、似たような経緯を経て戦後復興を遂げ、世界GDPの2位と3位を担うに至りました。自動車や産業部品、工作機械など製造業において一部ライバル関係となりながら、貿易上の重要なパートナーとしてともにプレゼンスを高める結果ともなっています。

ドイツ人は日本をどう思うか?

さて、このように紆余曲折、表面的にはお互いに敵対と友好を繰り返すことのあった日独の政治関係ですが、ドイツ人個人的には日本のことをどのように思っているのでしょうか?

多くのドイツ人にとって日本は「特段好きでも嫌いでもない、遠いアジアの国」という印象が一番適した回答と言えることでしょう。ドイツで好まれて勉強される第二外国語、ドイツ人にとって人気の旅行先、などのドイツ人から見た外国ランキングのトップ10位には、いずれも日本語や日本という名前は登場することがありません。

もっとも、この手のランキングには日本だけではなくアジアや南米、アフリカといった「ヨーロッパ以外」の国々が登場しにくいため、日本が登場しづらいのはややしょうがないとも言えるでしょう。ドイツでは第二次世界大戦の終戦記念日が5月8日で把握されていることを見れば分かる通り、ドイツ人にとってはどうしても「ヨーロッパ」が世界の中心で、それ以外の地域や文化の情報は入ってきづらく、関心が薄い傾向にあります。

信念のないドイツ人の「反日」と「親日」

上述の通りドイツ人にとって、日本のことはどうしても「遠いアジアの出来事」という印象をぬぐえません。そのため、ドイツ人の日本という国に対する情報源は基本的にはテレビや書籍、新聞に依拠する形となり、その時の政治情勢によって対日意識はころころと変化する傾向にあります(東日本大震災の際の汚染水処理の件などをドイツメディアは批判、一方で旅行番組などでは日本文化を好意的に紹介する、等)。

ドイツ人が日本をどう思っているか、に関する明確な答えは外務省が2020年に実施した対日世論調査を参照するとその一端に触れることができます。同調査において、ドイツ人からみた日本という国は「どちらかというと友好である」という答えが大半を占めており、現在のところポジティブかネガティブかであれば、どちらかと言えばポジティブ寄りの意見が優勢といえます。

外務省対日世論調査(2020年)を元に著者作成

電通のおこなったジャパンブランド調査2019の結果も、おおよそ外務省の調査と似たような、どちらかと言えば好意寄り結果と言えるでしょう。距離的に情報の入りやすい他のアジア諸国に比べると相対的に日本への好意度が低く見えますが、かといって決して「嫌い」というほどでもなく、どちらかといえば「好き」が優勢であることが伺え、そもそも「日本のことを知らない」といった浮動票が一定数いることが想像できます。

ちなみに、同じく外務省のおこなった調査ではドイツ人にとってアジアで最も重要なパートナーとして最も票を得ているのは日本ではなく既に中国であり、諸アジア国の経済発展と日本のプレゼンスの低下にともない、ドイツにとっての日本の経済パートナーとしての価値が薄れつつある、という点を忘れてはいけません。

外務省対日世論調査(2020年)を元に著者作成

もう一つ、忘れてはいけないのがドイツ人は世界でも有名な「批判好き」の国である点です。自国の政策や自社の労働環境など不満を噴出しやすい国民性と言えるので、アンケートや意識調査の結果だけを見て、ことさら日本にだけ批判的な意見が多い、と悲観的になる必要はないのではないでしょうか。

ドイツ人が好きな日本の文化

中国や韓国の台頭によって押され気味であるとはいえ、「メイド・イン・ジャパン」はやはりドイツでも「高品質」の代名詞として根強い人気を誇ります。ドイツ人の中の日本に対するポジティブなイメージでは「経済力・技術力」は「豊かな伝統と文化」と並んで高い数値を示しており、ニコン、ソニーや日本車等のプレゼンスはいまだに健在です。

アニメ市場の規模ではフランスやイタリアの後塵を拝しますが、一定の日本文化ファン層を抱えるドイツでは、欧州最大の日本フェス(Japan Tag)や漫画イベントが開催されるなど、根強いファンの関心を集めています。同様に、J-Popや日本映画など、日本のポップカルチャーも一定数の熱烈なファンの人気を集める傾向にあります。

(C) flicker

茶道、華道、書道、禅など、日本の伝統文化を好むドイツ人も多くないとはいえ一定数いると言えるでしょう。特に「日本のお茶」「日本の茶器」「日本の着物」といった伝統文化に基づいた製品などは、一般的なドイツ人でも知るところとなっています。

同様に、空手、柔道、剣道といった日本由来の武道やスポーツも老若男女問わず人気を持っています。特に日本に詳しくないドイツ人だとしても、こうした武道やスポーツを通じて日本語を少し覚えた、という層も一定数存在しますね。

(C) flicker H.

ドイツ人が嫌いな日本の文化

日本の労働文化のことを少しでも聞きかじったことのあるドイツ人の中には、日本人の仕事環境に対してネガティブなイメージを持つ層は少なくありません。すでに英語として浸透しつつある「過労死(Karoshi)」をはじめ、「サービス残業」「休日出勤」「少ない有給」「付き合いでのお酒やカラオケ」「Workaholic(仕事中毒)」といった仕事文化は、残業を嫌い家族との時間を好むドイツ人が眉をしかめる日本文化の典型といえるでしょう。

エネルギーやエコ関連のトピックもセンシティブです。特に東日本大震災の際には、ドイツは脱原発のために度々日本における惨事を引き合いに出したことから、この点で日本に悪いイメージを抱いた、という人も増えたことでしょう。

その他、個人の信条や政治的背景に基づいてその国のイメージが決定されることもあるため、必ずしもその人の持つイメージと実態が一致しているとは限りませんが、「引きこもり(Hikokomori)」「高い自殺率」「職場の男女格差」「低い英語能力」「外国人差別(コロナの際の鎖国政策など)」「アニメなどの性的な描写」などを好ましく思わない人も一定数存在します。最も、上述の通りこうしたイメージは各種メディアを通じて場合によっては面白おかしく歪曲されて描写されることもあるため、注意が必要です。

日本好きのドイツ人とはどこで知り合える?

このように、ドイツ人の日本に対する評価は「そこまで詳しく知らないけれども、伝統文化や技術に関してはポジティブ、仕事文化や社会に関してはネガティブ」と、メディアを通し聞きかじった程度のなんともふわふわした感じと言えるのではないでしょうか。 とはいえ、日本語を自分で勉強したり、自分で日本を訪れたり、大学で「日本学」を専攻したりと、中には熱心な日本ファンと化してくれるドイツ人層も一定数存在します。こうした日本に好意を持つドイツ人達と仲良くなるには、どうしたらよいのでしょうか?

大学内の親日ドイツ人

学生の中で親日、あるいは知日と呼ばれるドイツ人層は「Japanologie(日本語学科)」の学生であることが多いと言えるでしょう。「Japanologie」とは日本語、日本の歴史、日本の文化など日本にまつわる分野を総合的に学習する大学専攻科目のことで、2022年現在、ハイデルベルク大学やライプツィヒ大学など、ドイツで11の大学(2022年10月現在)が「Japanologie」を開講しています。Japanologieの学生は、日本語が堪能なだけではなく、ポップカルチャーや伝統など日本の文化全般に興味を示していることが多いため、日本人としても話が合わせやすい傾向にあります。

また、「Japanologie」の専攻を設けていない大学でも、ほとんどの都市で「日本語コミュニティ」というものが有志ボランティアなどによって設置されており、ライトなドイツ人日本ファンと日本人の交流の場として機能しています。こうした場を通じて、語学パートナーを見つけることなどが頻繁におこなわれています。

ちなみに、ドイツ人の中の日本語学習者の数は15,465人で、世界19位、ヨーロッパ内ではフランス、イギリスに次ぐ3位の座を占めています。2015年と比較すると日本語話者の数は16.7パーセントも増加しており、日本に興味を持つ親日学生の数が増えていることが伺えます (参考:国際交流基金「2018年度 海外の日本語教育の現状」)。

職場内の親日ドイツ人

一般的に、こうして大学で日本語を専攻したドイツ人や、日本文化に強い興味を持ち留学経験などのあるドイツ人は、日系企業や日本と関連する仕事分野で活躍する傾向にあります。つまり、在独の日系企業などで働くドイツ人は意識的に(あるいは無意識的に)日本好きであるケースが多いという事です。

この現象に関しては、University of Göttingenの研究論文(「Organizational attractiveness of foreign firms in Asia: Soft power matters」)で、特定の国の文化に興味・関心の強い若者は、その国由来の企業で働くことに魅力を感じるということが裏付けられているとおりです。応募者・採用者お互いにとって、日本好きのドイツ人が在独の日系企業で働いてくることにはアドバンテージがあると言えるでしょう。

一方で、日本とは関係のないコンテキストでの仕事環境では、どうしても日本好きのドイツ人に巡り合う確率は低くなると言わざるを得ないでしょう。冒頭で示した通り、多くのドイツ人にとって日本は「遠いアジアの国」なのですから。




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