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ドイツの医療保険制度を比較解説|公的保険(GKV)と民間保険(PKV)の違い・特徴・対象者と注意点

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ドイツ在住者・移住予定者は必見です。公的医療保険(GKV)と民間医療保険(PKV)の歴史・対象者・保険料の違いから、専門医予約の待ち時間格差のようなデメリットまで分かりやすく解説します。

公的保険と民間保険の並存、なぜ2つの種類があるのか?

日本の医療保険は、種類は違っても全ての保険が一つの公的保険制度に統合されていますが、ドイツでは、公的医療保険と民間医療保険が並存しています。前者は日本の公的医療保険に相当するものですが、後者は日本のような追加的な民間保険(例:がん保険)ではなく、公的保険医療のようにフルカバーの保険となります。どんな人がどちらの保険に加入していて、それぞれどのような特徴を持つのか、また公民の保険の並存によりどんな弊害があるのかを見ていきたいと思います。

▼目次

  1. 公的保険の歴史
  2. 各保険の特徴と対象者
  3. 保険料
  4. 保険適用範囲と診療費・医薬品費
  5. 公的保険と民間保険の格差

公的保険の歴史

ドイツでは19世紀、当時の宰相ビスマルクにより、工場などで働く賃金労働者向けに公的医療保険(以下、公的保険)が世界で初めて導入されました。これにより、労働者には保険加入義務が、雇用主には保険料の一部負担が課されるにようになりました。

その後、公的保険の対象となる職業群が広がっていきました。他方、保険加入義務が課されなかった職業(例:公務員や自営の職人)を持つ人々は、任意、つまり自由意志で民間の保険会社が提供する医療保険(以下、民間保険)に加入するようになっていきます。

そして2009年に国民皆保険制になり、それまで公的保険加入が義務付けられていなかった国内居住者(例:自営業者や公務員)も、公的保険もしくは民間保険のどちらかに加入しなければならなくなりました。

各保険の特徴

項目
加入割合 国内居住者の約9割 国内居住者の約1割
保険料決定の基準 収入に応じて決定(所得再分配機能) 個人の疾病リスク・年齢・契約内容に依存など
扶養家族 条件を満たせば保険料免除(無料) 家族一人ひとりとの個別契約が必要
補償範囲 原則として全加入者に必要かつ均一な医療 基本補償+手厚いオプション(個室・代替医療等)

現在国内居住者の約9割が加入しています。公的保険は、連帯主義に基づき、強者から弱者へ再分配が行われます。これは具体的には、同じ疾病金庫(Krankenkasse:日本の健康保険組合に近い存在)の中では保険料が同率なので、収入の多い人は保険料が高くなり、少ない人は安くなることを意味します。

つまり、収入の高低にかかわらず、全ての加入者に必要な医療が提供されます。

残りの約1割は民間保険に加入しています。保険料は、公的保険と異なり、収入に左右されません。保険料は、当人の疾病リスク(病気や怪我をするリスク)や既往症(持病)、(加入)年齢、償還範囲、扶養家族の数、免責の有無、保険会社などによって異なってきます。

ここで言う民間保険は、前述したように公的保険が給付しない診療やサービスを補足する保険ではなく、公的保険に相当する、またそれ以上の範囲をカバーする保険(原語 Vollversicherung)を意味します。

各保険の対象者

ドイツでは原則全被用者、つまり会社に雇用されている人には公的保険加入義務があります。ただし給与が一定額(現在 77,400ユーロ/年)以上の被用者は加入義務が免除され、民間保険に加入することができます。その他、公務員や自営業者にも加入義務がありません。

その一方で、農業従事者、芸術家・ジャーナリスト、大学生、職業訓練生、年金受給者・申請者、失業者などには、被用者でなくても原則公的保険加入義務があります。ただし義務が免除される例外も多々あり、これら職業の人が民間保険に加入していることも珍しくありません。

公的保険への加入義務が免除されている、また自営業者など加入できない人々が民間保険に加入しています。民間保険加入者の中で最も多いのが公務員(教員や警察官など。退職後の年金生活者も含む)であり、自営業者、民間企業の被用者がこれに続きます。

保険料

保険料の決まり 所得連動
(基礎14.6%+追加2.9%)*1
個人リスク連動
(年齢・既往症・加入プラン・扶養人数)
扶養家族 無料(条件を満たせば保険料免除)*2 有料(家族一人ひとりとの個別契約が必要)
公務員・自営業 自営業は原則全額負担 公務員:国・州が補助(50-80%)しない医療費に対して
自営業:全額負担*3

*1 2026年査定上限:年69,750EUR  *2 2028年から配偶者などに対して2.5%追加予定 *3減収時などは基礎タリフへ変更可能

公的保険の保険料は基礎保険料と追加保険料から構成されます。基礎保険料率は一律14.6%と法で定められています。これに、約90ある疾病金庫ごとに異なる追加保険料(現在平均2.9%)を加えたものが保険料率となります。これを給与に乗じた額が保険料です。日本同様に、保険料は労使折半され、会社員などの被用者は保険料の半分だけを負担します。保険料は給与から天引きされます。

保険料計算の基となる給与にはしかしながら上限(保険料査定上限)があり、この上限を超えると給与がいくら高くても保険料は同じ額にとどまります。この給与査定上限は2026年現在年間69,750ユーロです。保険加入者の扶養家族の保険料は免除されます。

ただし、2028年からは扶養される配偶者・生活パートナーに対し、主たる加入者に、2.5%の追加保険料が課せられる予定です。子供に対する追加保険料は予定されていません。

民間保険の保険料は契約条件により様々ですが、主に既往症、疾病リスク、および扶養家族の数に応じて増えていきます。高齢になれば疾病リスクは高まるので、保険料が上昇します。

他方、これにより老齢時の保険料が高くなりすぎないように、保険料の一部は積立金に当てられます。加入年齢が低ければ積立期間が長くなるので保険料は安くなり、高くなれば積立期間が短くなるので保険料は高くなります。

また、入院時の一人部屋といったプレミアムなサービスや、自然療法などの代替医療もカバーするような保険契約を選択すると、保険料が高くなります。ある民間保険を比較したリストによれば、例えば35歳の独身男性が民間保険に乗り換える場合は月額543〜1010ユーロです*1。

自営業者はこの保険料を全額自己負担します。会社員においては民間保険料も労使折半なので半額となります。公務員においては、連邦また州が医療費の50〜80%を補助することが決まっており、残りの自己負担分を民間保険がカバーします。公務員は従来、民間保険に加入しないと雇用主から補助を受けられませんでしたが、近年は公的保険への任意加入を認め、保険料を半分負担する州も増えています。

民間保険料は前述したよう収入に左右されないので、高収入で扶養家族が少ない若い人にとっては公的保険より割安となります。例えば月給6,000ユーロ(約111万円)に対する公的保険料は労使折半後平均509ユーロ(94,165円)であり、前述の35歳男性の場合、たとえプレミアムなサービスもカバーする高額な保険契約を選んでも民間保険料の方が安くなります。

では、保険料が払えなくなったらどうなるのでしょうか。

民間保険加入者も含め会社員は一部の例外を除き、失業保険を受けるとなれば、公的保険への加入義務が生じます。この場合、公的保険料は公費が負担します。一方の自営業者は、事業に失敗し収入がなくなる、あるいは病気になり減収した場合も、一部の例外を除き公的保険に移ることができません。そのため、従来の保険料が払えなくなった民間保険加入者のために、例えば基礎タリフというタイプの民間保険契約があります。

民間保険会社は、基礎タリフの加入者を拒否することも、病気・怪我のリスクや既往症に対し保険料を加算することも許されません。保険料は、公的保険料査定上限の収入に対する保険料を超えてはならないと定められているだけで、個人によって異なってきます。保険料を支払えない加入者に対しては、保険料を半額することが義務付けられています。半額でも支払いがなおかつ難しい加入者には、生活保護を管轄する当局が必要な補助をすることになります。保険がカバーする範囲は公的保険に準じます。

保険適用範囲と診療費・医薬品費

入院医療
治療内容
原則民間と同等 原則公的と同等
部屋・医師 大部屋・担当医 1〜2部屋・部長級医師指定可
支払い 1日10EURの自己負担のみ 病院へ全額支払う。保険会社へ請求
または「病院カード」で精算も可能
外来診療
費用
無料
(窓口負担なし)
自由診療
(公的の数倍の請求額)もカバー
医薬品
処方薬
カバー
(原則 処方義務薬)
カバー
(OTC薬・先発薬・ライフスタイル薬も部分的に)
自己負担・他 1パッケージあたり5-10EUR自己負担 薬局で支払い後保険会社へ請求

 

入院医療

ドイツでは、入院医療と外来医療が日本よりも厳密に分けられています。原則病院は入院する場所であり、外来医療は町の診療所が提供しています。制度上も別扱いとなります。病院で外来診療が提供されることもありますが、これは入院医療の枠外で、外来医療として扱われます。

入院医療で保険が適用になる範囲は、公的保険と民間保険にほぼ差がなく、どちらに加入者にも最新の治療法も含め必要な医療が提供されます。病院が疾病金庫または保険会社から受ける報酬も原則同じです。

ただし多くの民間保険契約は、一人または二人部屋や部長級医師による診療といったサービスを含んでいます。公的保険はこれらをカバーしないので、患者には多床室があてがわれます。

支払い方式は公的保険と民間保険とで異なります。

民間保険加入者は伝統的に、発生した全費用を病院に支払い、保険会社から払い戻しを受けていました。ただし最近は、民間保険会社の多くが「病院カード方式」も提供しています。同方式を選びカードの発行を受けた患者は、病院にカードを提示すれば、病院への支払いを民間保険会社に託すことができます。

これに対し公的保険加入者は、入院1日につき10ユーロの自己負担のみが発生します。この10ユーロは返金されません。ちなみに入院費には通常医薬品費も含まれています。

外来医療の保険適用範囲と診療費

入院医療と異なり公的保険加入者には患者負担がなく、無料で診療を受けられます。各患者が加入する疾病金庫が医師に診療報酬を支払います。

不可欠で有用な診療は提供されるものの、公的保険が適用される診療範囲には自由診療と異なり、制限があります。制限されている代表的なものが、各種予防的検査や、セラミック製義歯やインプラントといった歯科診療です。

予防的検査の例としてよく挙がるのが、緑内障や前立腺がんの検査です。公的保険の枠内で外来医は、これらの病気の疑いがある、または過去に患った患者にしかこれら検査を提供できません。公的保険加入者がこれらの診療を希望する場合は、自由診療の価格を自ら支払う必要があります。

例えば、緑内障検査の価格は、医師により異なりますが、およそ20〜40ユーロの間となります*2。

民間保険は、提供が許され医師が医療上必要と判断する診療の費用をカバーします。民間保険加入者に提供される診療は日本の自由診療に当たり、公的保険が適用されない診療(例えば予防的検査)も含まれます。また、医師ではない自然療法士による自然・代替療法をカバーする保険契約もあります。

各自由診療行為の基本料金は、政府が制定しています。外来医は、手間に応じ基本料金を数倍にして患者に請求します。

診療所へ自ら支払う必要のない公的保険加入者と異なり、民間保険加入者は自由診療の費用を医師に自ら支払います。とはいえ日本のような窓口払いは稀で、大抵は後日医師から請求書が郵送またはeメールで送られてきます。そして医師からの請求書を保険会社に送ると、払い戻しが受けられます。ちなみに同じ診療行為に対する自由診療の料金は公的保険の平均約2.3倍と言われています*3。

外来医療の医薬品の保険適用範囲と費用

公的保険は原則処方義務医薬品をカバーしています。処方義務医薬品とは、医師の処方無しでは買うことができない医薬品を意味します。多くの国では新しい革新的な医薬品が保険適用になるまで時間がかかることが多いですが、ドイツでは新しい医薬品でも発売後すぐに保険が適用になり、使えるようになるという強みがあります

他方、診療とは異なり、医薬品には公的保険加入者にも患者負担があります。医薬品価格の10%、1パッケージ当り原則5〜10ユーロです。高額な医薬品も自己負担の上限は10ユーロであり、日本と比べ患者負担は軽めといえましょう。また未成年には自己負担義務がありません。(2027年からは7.5〜15ユーロ、自己負担の上限も変更)

民間保険は、医師が医療上必要と判断し処方すれば、処方義医薬品ではないOTC薬(市販薬)や、後発薬が存在し公的保険加入者には追加的患者負担が求められる先発薬、ライフスタイル薬の一部もカバーします。自然療法士が処方した薬をカバーする保険契約もあります。

保険会社からの返金される額・割合は保険契約により異なってきます。医薬品の費用は、原則的に患者が薬局で支払い、その後処方箋と請求書を保険会社に送り、返金を受けます。民間保険加入者にも、公的に定められている医薬品価格が適用されます。

公民保険の並存による弊害 待機日数における公民の格差

公的保険と民間保険が並存することで、日本では見られないような幾つかの弊害が生じています。最も顕著な弊害が公的保険加入者の長い待機日数です。

前述したように、外来医は民間保険から公的保険の2倍以上の報酬を得られます。これに加えて、量的制限なく診療を提供できます。

患者の窓口負担が無いドイツの公的保険は、外来医に緩い予算上限を課すことで医療費を抑えています。予算を超えて診療すると診療報酬が減額され、大幅に超えると無報酬になることもあります。外来医は公的保険の患者には迂闊に多くの診療ができない仕組みになっているのです。

このようなことから、外来医は公的保険加入者よりも民間保険加入者を優先しがちです。ドイツの外来医は家庭医の他様々な専門医(整形外科医、眼科医、皮膚科医、神経科医など)に分類されますが、特に家庭医以外の専門医にこの傾向が強く見られます。

ある研究によると、外来専門医における公的保険患者の、緊急性のない診療の待機期間は平均25日(土日除く)であり、民間保険の患者の平均12日に比べ、倍以上の長さとなっています*4。

そもそも公的保険加入者にとっては、専門医診療所で予約を取ること自体が難しくなってきています。

公的保険加入者である筆者も、足を骨折した際に、どの整形外科医にもなかなか対応してもらえず、予約自体に苦労した経験があります。後日家庭医から、緊急時は家庭医経由で早く予約をとる方法があることを教わりましたが、後の祭りでした。ちなみに近年は都市部を中心に、公的保険の患者を扱わない診療所も増えています。

社会民主党や、緑の党、左派党は、民間保険の公的保険への統合を長年訴えていますが、外来医や民間保険会社、保守派などの反対により、改革されないままとなっています。(2026年9月執筆現在)

記事の寄稿者:Keiko Yoshida

ドイツで社会科学修士号、日本で医療政策博士号を取得し、医療・介護などの制度・政策分野から産業・社会の幅広い分野で、独日通訳、調査・視察コーディネーター、ジャーナリストとして活動。

日本では日医総研客員研究員、青森県立保健大学院非常勤講師、地元フランクフルト近郊では病院同行の医療通訳も。


引用・参照

  1. Handelsblatt. Die besten privaten Krankenversicherungen 2026 im Vergleich. [↗︎] (Accessed on 05 Aug.2026)
  2. IGeL Monitor. [↗︎](Accessed on 10 Jul.2026)
  3. Hermann, C. Jacobs, K. Einheitlicher Krankenversicherungsmarkt – dringlicher denn je!. GGW. Jg.78, Heft1-2. pp. 11-16. 2024.
  4. Werbeck, A., Wübker, A., Ziebarth NR. Cream skimming by health care providers and inequalitzy in health care access: Evidence from a randomized field experiment. Ruhr Economic Papers No. 846. RWI-Leibniz-Institut für Wirtschaftsforschung, Essen.[PDF↗︎] (Accessed on 14. Aug. 2026)

 

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