「フェノロジカル・カレンダー」をご存じですか? 植物や動物が季節ごとに織りなす様々な現象(イベント)を観察することで、生物が生きる周期が季節と経年の気候の変化でどのように影響されるかを研究する季節学(フェノロジー)という学問に基づくカレンダーです。この、自然と密接な関係を持つカレンダーについてご紹介します。
フェノロジカルカレンダーとは
生物季節学(フェノロジー)は、生物学的ライフサイクルの周期的な現象(イベント)と、それらが気候の季節的および年々の変動、および生息地の要因(標高など)によってどのように影響を受けるかを研究するものです。
生物学的ライフサイクルの周期的な現象(イベント)の例としては、葉や花の出現日、蝶の初飛行、渡り鳥の初飛行、落葉樹の葉の着色と落下の日、鳥や両生類の産卵日、または 温帯ミツバチコロニーの発達サイクルなどがあります。
これらの自然の時間的特徴を表すイベントは、多くの学問分野とも関連しています。
季節の原因と結果に関する詳細な知識は、農業、気象と気候の研究、生態学、医学、観光において、特に重要となります。
ガーデニングに活用されるフェノロジカルカレンダー
フェノロジカルカレンダー(Phänologische Kalender)日常生活の中でも、ガーデニングの分野でも、とても興味深いものです。
例えば、レンギョウ(Forsythien)が咲き始めたときが、バラ(Rosen)を切って受精させる良い時期であることがわかります。 そしてライラック(Flieder)が咲くと、寒さに敏感な鉢植えの植物の越冬のための道具を物置から取り出すシーズンがやってきたことがわかります。
農業に活用されるフェノロジカルカレンダー
先人たちはすでに、農業のルールにもこのような自然観察を使用していました。「フキタンポポ(Huflattich)が咲いたら、ニンジン(Möhren)と豆(Bohnen)を蒔くことができます」
本ウェブサイトでもご紹介している「ドイツ農家の季節の言葉」シリーズも、このフェノロジカルカレンダーが参考になるところがたくさんあります。
四季より多い十季
フェノロジカルカレンダーでは、一年は四季ではなく、特別な生物季節学の指標(リードフェーズ)により、10の季節に分けられます。
ドイツにおけるフェノロジカル・カレンダーの10の季節とは、以下のとおりです。
春先(Vorfrühling フォアフリューリング)
「春先」は通常、2月下旬または3月上旬に始まります。
この時期には、ヘーゼルナッツ(Haselnuss)、スノードロップ(Schneeglöckchen)、ハンノキ(Schwarz-Erle)、ヤナギ(Salweide)の最初の花がほころび、また、オウバイ(Winter-Jasmins)の黄色の花が満開になることで「春先」の到来を知ることができます。
冬が終わった喜びをかみしめる季節です。
アルプス地方では、セイヨウカジカエデ(Bergahorn)の新芽が出る季節です。
「春先」には、冬期に土壌に蓄えられていた水分が蒸発して、農業活動が開始される季節です。この季節は、夏の穀物の播種で締めくくられます。
初春(Erstfrühling)
3月末頃から4月末にかけて街角を彩るレンギョウ(Forsythie)の鮮やかな黄色の花は、春の訪れの喜びを告げてくれます。
グーズベリー(Stachelbeere)とスグリ(Johannisbeere)の葉、その後のサクラ(Kirche)、プラム(Pflaume)、ナシ(Birne)、ブラックソーン(Schlehdorn)、カエデ(Ahonr)の開花によって表されます。
夏の穀物も芽を吹き始め、草地が緑に変わります。 木々の緑も、最初はセイヨウトチノキ(Rosskastanie)とカバノキ(Birke)に始まり、約1週間後、赤いブナ(Rotbuche)、リンデン(Linde)、カエデ(Ahonr)も葉を出し始めます。 農家では、ジャガイモ(Kartoffeln)の植え付けとテンサイ(Zuckerrüben)の種まきを始めます。
春爛漫(Vollfrühling)
春爛漫は、リンゴ(Apfel)やライラック(Flieder)、それから後にラズベリー(Himbeere)が開花するのが特徴です。
欧州大陸における春爛漫は、通常ポルトガル南西部の2月末に始まり、約90日後に約3600km離れたフィンランドに到達します。 したがって、大陸を1日あたり約40kmの速度で北に移動する計算ですね。
この時期には、オーク(Eiche)が葉を出し、テンサイ(Zuckerrüben)やジャガイモ(Kartoffeln)が畑で育ちます。
初夏(Frühsommer)
初夏は通常6月頃になります。
草(Gräser)やエノコログサ(Wiesen-Fuchsschwanz)、エルダーフラワー(Holunder)、サンザシ(Weißdorn)、ポピー(Türkischer Mohn)が咲きます。
初夏は干し草の収穫の時期でもあり、多くのアレルギー患者にとって、花粉症(Heuschnupfen)の季節の始まりです。
盛夏(Hochsommer)
盛夏になると、セイヨウシナノキ(Sommer-Linde)、チコリ(Wegwarte)、ジャガイモ(Kartoffel)が咲き、庭でスグリ(Johannisbeeren)が熟します。
最も重要な農業イベントは穀物の収穫であり、大麦(Gerste)の刈り取りから始まります。 これに続いて、菜種(Raps)、小麦(Weizen)、そして最後に冬のライ麦(Roggen)とオーツ麦(Hafer)が収穫されます。
晩夏(Spätsommer)
夏の終わりには、リンゴ(Apfel)、ナシ(Birne)、プラム(Zwetschge)、ナナカマドの果実(Vogelbeere)など、数多くの果物が熟します。 同時に、秋のアネモネ(Herbst-Anemone)が咲き始めます。
穀物の収穫はほぼ完了し、2回目の干し草の収穫(Grummet)が行われます。
初秋(Frühherbst)
初秋の初めの指標植物は、秋のクロッカス(Herbstzeitlose)と、エルダーベリー(Schwarzem Holunder)とヘーゼルナッツ(Haselnuss)の成熟の始まりです。 梨(Birnen)やプラム(Zwetschgen)などが収穫されています。
秋本番(Vollherbst)
オーク(Eiche)、セイヨウトチノキ(Rosskastanie)、マルメロ(Quitte)、クルミ(Walnuss)は、本格的な秋にのみ熟します。
この間、セイヨウトチノキ(Rosskastanie)、ブナ(Rotbuche)、オーク(Eiche)、アッシュ(Esche)、ワイルドワイン(Wilder Wein)など、多くの野生の木も葉を変色させ始めます。
果樹類の葉はすでに落ちています。 ジャガイモ(Spätkartoffeln)、ビート(Rüben)、リンゴ(Äpfel)が収穫され、冬の穀物の播種が始まります。
晩秋(Spätherbst)
オーク(Eiche)やセイヨウトチノキ(Rosskastanie)などの野生の木々が葉を落とすとすぐに晩秋が始まります。
冬の穀物が実ります。
気温が下がると、農作業も徐々に落ち着いていきます。
木々の葉が全て落ちきるとともに、晩秋は通常11月中旬から下旬に終わります。
冬(Winter)
冬には、数種類の冬にも葉を残すオーク(Eiche)やブナ(Buche)を除いて、すべての木が葉を失います。ちなみに、植生はほとんど休眠しています。
フェノロジカルな冬は、11月の終わり頃または12月の初めから、2月の半ばまたは終わりまで続きます。
フェノロジカルカレンダーについて、簡単にご案内させていただきました。
季節をより細かく分けていくというのは、日本の二十四季節にも似たアプローチですが、冬がざっくりとひとつしかないのが、なんとも大胆ですがすがしく、さすがヨーロッパだな、と思いませんか?