ドイツで見かける食品表示「ベジタリアン」「ヴィーガン」「ハラール」の違いは?

ドイツのスーパーやレストランでよく見かける表示に、「ベジタリアン食(vegetarisch)」「ヴィーガン食(veganisch)」「ハラール食(Halal)」があります。3つの食品の購入層は重なる部分と重ならない部分があり、明確な違いは理解しづらいのではないでしょうか?そこで今回は、ベジタリアン/ヴィーガン/ハラールの違いと、ドイツにおける事情や立ち位置を解説します。

1. ベジタリアン、ヴィーガン、ハラールは何が違う?

ベジタリアン(Vegetarier)、ヴィーガン(Veganer)、ハラール。この3つはまず、ベジタリアン/ヴィーガン組とハラールに分けられます。両者の決定的な違いは、宗教的なものかそうでないかです。ベジタリアン/ヴィーガンは「菜食主義」とも言い換えられますが、宗教や国・民族とは関係のない信条や主義・主張から生まれたムーブメントです。一般的には広義な菜食主義者をベジタリアン、さらに厳密に動物性由来のものを食事から排除した菜食主義者をヴィーガンと呼びます。

対するハラールは、イスラム教と結び付くものです。ハラールはイスラム法において合法なもの(神と預言者ムハンマドが許したもの)を意味するため、その対象はおもにイスラム教信徒となります。ハラールの対象は飲食物に限らず、生活全般が影響を受けます。

2. ドイツのベジタリアン/ヴィーガン事情

どのスーパーに行ってもベジタリアン/ヴィーガン食品コーナーがあり、保育園や幼稚園の給食でも肉を含む通常食とベジタリアン食の選択肢がある国、ドイツ。よほど菜食主義が進んだ国なのだろうと思いきや、人口比率で世界的に見るとそれほど上位に来るわけではありません。ドイツのベジタリアン人口(2022年)は全人口比約7.9%(※1)で、2022年の全人口数から割り出すと約666万人。日本のベジタリアン人口は全人口の約5.9%(※2)とされていますから、人口数では約740万人となり、実はドイツを上回っています。

日本と人口比率は大きく変わらないのに、ドイツで菜食主義がこれほど市民権を得ているのは、菜食が宗教的な事情と結び付いているからでしょう。ドイツの伝統的な食生活は、牛肉・豚肉・鶏肉をはじめ、卵や乳製品、ゼラチンなど動物性・動物由来の食品を多く使うものです。それがいわゆる普通食、つまり食材制限がない食事なので、そこから外れる食生活を希望する・必要とする人は必然的に「ベジタリアン食」や「ヴィーガン食」を選ぶことになります。

ドイツは多民族国家なため、宗教的理由から特定の肉や食材を口にできない人が日本よりも多く住んでいます。例えばイスラム教徒であれば豚肉や豚由来のゼラチンなどが禁止されているし、ヒンズー教徒であれば牛肉を食べられません。これらの事情に配慮した結果、ドイツではベジタリアン食/ヴィーガン食の普及が進んでいると考えられます。

食事習慣や摂取する食品に対する主義は、以下のように定義されています。ベジタリアンの中でも、魚介類は食べるペスコ・ベジタリアン、乳製品は食べるラクト・ベジタリアンなどそのスタイルによってさらに細分されますが、上に行くほど厳格な菜食主義となります。

呼称 食生活 乳製品 はちみつ、動物性ゼラチン
ヴィーガン 動物性食品、動物由来の食品を一切食べない × × × × ×
ベジタリアン 肉・魚介類を食べない × ×
(ラクト・ベジタリアン) 乳製品は食べる × × ×
(オボ・ベジタリアン) 卵は食べる × × ×
(オボ・ラクト・ベジタリアン) 卵や乳製品は食べる × ×
ペスケタリアン/ペスコ・ベジタリアン 肉類を食べない ×
フレキシタリアン 植物性食品中心の食生活だが、肉類や魚介類も食べる
オムニボア 動物性を含むあらゆる食品を食べる

※△は個人の主義や信条によって摂取状況が異なる

3. ベジタリアン/ヴィーガン食品の市場規模

ドイツのベジタリアン/ヴィーガン人口は、波はあるもののおしなべて上昇傾向にあります。2022年には両者合わせると全人口比率で9.5%、800万人にのぼっています。

ベジタリアン/ヴィーガン人口の拡大に伴ってその食品市場も急成長しており、ドイツ連邦統計局のレポートによると、2020年は前年比39%の伸びが報告されています(※3)。ベジミート(代替肉製品)の生産量は前年の60,400トンから83,700トンに増加し、販売価格は2億7,280万ユーロから3億7,490万ユーロに増加と急拡大を続けています(前年比137%)。ドイツのスーパーでベジタリアン/ヴィーガン食品を見かける機会が増えたのには、このような背景があります。

4. ドイツのハラール事情

街中でよく見かける表示が増えたのは、ハラールも同様です。ドイツ国内のイスラム教徒人口は年々増加しており、ドイツ連邦内務省によると、現在全人口の5.4〜5.7%がイスラム教徒となっています(※4)。人が増えればその文化・生活習慣に対応した商品や店が増えるので、ハラール対応食品やレストランを見かける機会が多くなったと感じるのも当然の成り行きと言えます。

Statista “Entwicklung der Anzahl der Muslime in Deutschland von 1945 bis 2020 ” をもとに作成

イスラム教では、食事は人の精神やモラルに影響を及ぼすものとして、ハラール(イスラム法において合法)なものを食べることが「善い行い」に結び付くと考えられています。イスラム法には一部食べてはいけない「不浄なもの」があり、それらを含まない・あるいは適した方法で加工された食品が「ハラール対応」あるいは「ハラール認証」と定義されます。イスラム法で不浄とされているのは、以下のものです。

  • 犬と豚、またその関連のもの(唾液、毛、皮膚、排便、精子、卵子など)
  • 人や動物の糞尿、血、膿、吐瀉物
  • 死肉
  • ハラールに屠殺されていない動物
  • アルコール、アルコールを含む食品・飲料

ハラール表示に関してドイツにはまだ明確な基準がなく、公的な認定ではない点には注意が必要です。ハラールを謳っている食品もドイツの公的認定機関によって評価されたものではなく、あくまで製造国や小売店の基準によって独自に表示しているものになります。

5. ハラール食品の市場規模

世界的に見た2021年のハラール製品市場は2兆USドル超で、今後さらに拡大し、2025年には2.8兆USドルに成長すると予測されています(※5)。ドイツでもハラールフードは徐々に存在感を増しており、一部はイスラム教徒以外にも受け入れられてポピュラーになりつつあります。例えば、ひよこ豆を主原料とするコロッケ風の「ファラファル(falafel)」は、植物性たんぱく質が取れる食品としてベジタリアンやヴィーガンにも人気です。

反面、動物の屠殺に関しては、EUの動物福祉条例とハラール式とに齟齬があり、着地点を見出すのが難しい状況になっています。EUの動物福祉条例では、動物への苦痛を最小限にするために鎮痛剤や麻酔の使用が義務付けられていますが、ハラール式では原則麻酔の使用を禁止しているためです。ドイツでは宗教的な理由など避けられない事情がある場合のみ麻酔なしの屠殺が許可されますが、無許可に行われた場合は罰金の対象となります。

【出典・参考】
※1:statista. “Anzahl der Personen in Deutschland, die sich selbst als Vegetarier einordnen oder als Leute, die weitgehend auf Fleisch verzichten¹, von 2007 bis 2022 ”. 2022年7月.
※2:Vegewel. 「 第4回日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査」. 2023年1月.
※3:Statistische Bundesamt (Destatis). “ Vegetarische und vegane Lebensmittel: Produktion stieg 2020 um mehr als ein Drittel gegenüber dem Vorjahr”. 2021年5月14日.
※4:Bundesministerium des Innern und für Heimat. “ Islam in Deutschland”. 2023年5月参照.
※5:statista. “ Marktvolumen für islamische Produkte und Dienstleistungen im Jahr 2021 und Prognose für 2025”. 2023年9月8日.

・Statistisches Bundesamt (Distatis). “ Bevölkerung nach Nationalität und Geschlecht (Quartalszahlen)”. 2023年5月参照.
・日本ハラール協会. 「 ハラール(ハラル)とは?」. 2023年5月参照.




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